友情と恋愛のあいだ

nanamame

友情と恋愛のあいだ
  1. ヨンフン ✕ チャンミン
  2. サンヨン ✕ ジェイコブ
  3. ソヌ ✕ チャニ

ヨンフン ✕ チャンミン

「ああ、もう! 何でできないの?!」

通りすがりの練習室の中から、チャンミンの大きな声が聞こえた。まだ練習を続けていたのだろう。ヨンフンも練習を終えて、帰ろうと思ったところだ。一緒に帰ろうか、と思って、ドアを開けた。

チャンミンはあぐらをかいて座り、鏡に向かって、指を突きつけて何やら説教をしていた。

「もう、何でできないの? 僕が踊りたいんだから、ちゃんと動いてくれなくちゃ駄目でしょ! 言うこと聞いて!」

鏡の中の自分に向かって、怒っているらしい。プンプンという擬音が聞こえそうな、分かりやすい怒った顔だが、チャンミンの場合は、どんな表情でもかわいい。というか、鏡の自分に対して怒ってもどうしようもないと思うのだが。つい、ぷっと吹き出して笑ってしまった。

「あ?!」

ヨンフンが部屋に入ってきたのも、気付いていなかったようだ。驚いた顔で勢いよく振り返る。

「ヨンフニヒョン、何で笑ってるの?」
「チャンミンは何で怒ってるの? 鏡に言ったって、意味ないだろ」

隣に座る。ついさっきまで踊っていたようだ。少し荒い呼吸、汗に濡れた髪、火照ってピンク色の頬。その頬が、ぷくっと膨れる。まだ怒りは収まらないらしい。

「僕がこんな風に動きたい、踊りたいって思ってるのに、手も足も思い通りに動いてくれないんだもん! 僕がこういう風にしたいって思って、考えてるのに、僕の身体なのに、言うこと聞いてくれないの!」

手を動かしながら、ディテールを説明してくれる。思い通りにうまく踊れないことに対して、怒っている。自分の身体が、自分の思い通りに動かないことに対して、苛立っている。自分に厳しい、チャンミンらしい怒りだな、と思った。

「チャンミンはいつも、上手に踊ってるよ。自分の身体をコントロールするのは、結構難しいことだよ」
「いつも通りじゃ駄目なの。もっと…、もっとできるはずなんだ」

チャンミンは、着ているTシャツの裾で汗を拭いながら、鏡の中の自分を睨んで、小さく呟いた。
今よりももっと。今まで以上に。それに、終わりはない。時々、どんなに練習しても、これ以上は上手にできないのではないか、と自分を信じられなくなる。
だけど、チャンミンは、自分を疑っていない。もっとできるはず、と自分に向かって、自分を高めるために、自分を叱っている。
その真っ直ぐさが、ヨンフンにはとても眩しくて、羨ましくて、愛おしい。

何も言わず、髪を撫でる。「大丈夫だよ」とは、気安く言えない。僕らは、もっと上を目指さなければならないから。
チャンミンは、泣きそうな顔でヨンフンを見る。ころころ表情がよく変わる。空気が抜けたバルーンのように、チャンミンの身体から力が抜けて、ヨンフンに凭れかかる。ずるずる沈んでいって、ヨンフンの腿を枕に、足の間に寝転がる。
まだ、髪を撫でている。汗で湿っていても、気になることはない。汗は彼の努力の証で、気持ち悪いものじゃない。

「ヒョンも、練習してたの?」
「うん、歌の練習。明日のレッスンで、先生に聞いてもらうから。でも、歌いこなすのは難しい」
「ヒョンも、自分に怒ることある?」
「怒ることはしないかなぁ。あまりに下手くそで、自分にがっかりすることはあるけど」

「そうなの!」と急に大きな声で言って、起き上がる。

「自分にがっかりなの。何でできないのって、もう失望しちゃって、怒っちゃうの…」

だんだん、小さくなっていく声。自分の感情に振り回されることにも、難儀しているようだった。

「ヒョンみたいに、大人になれない…」

それを聞いて、ちょっと驚く。

「僕、全然大人じゃないよ? それに、自分に対して怒るのって、自分を客観的に見ているってことだから、そっちの方が大人じゃない?」

「そうかなぁ」と言って唇を突き出す表情は、とても子供っぽい。表情や、仕草や、行動は子供っぽいのに、考え方や、向上心や、振り付けを教えてくれる時は、チャンミンは誰より大人っぽいと思う。

「自分に怒っても、失望しても、それは、もっと上があるって、もっとできるって、思ってるってことじゃないかな? だから、…大丈夫だよ」
「…そっか。そうだね」

嬉しそうに、安心したように笑うチャンミンは、誰よりもすてきだ。

「もう0時過ぎたよ。一緒に帰ろう」
「うん! 僕、お腹空いた。あっ、服、汗ついちゃった? ごめんね」
「気にしなくていいよ。どうせ洗濯するし」

本当に、感情の起伏や、表情の変化に、忙しいことだと思う。
そんなチャンミンと一緒にいたい。

「帰ろう」

手を出すと、躊躇いなく繋いでくれる。そんな距離が嬉しい。
夜食のことや、明日の仕事のことや、メンバー同士の些細な出来事や、いろんな話をしながら、手を繋いで帰途についた。

サンヨン ✕ ジェイコブ

ジェイコブがギターを抱えて、サンヨンの練習室を尋ねてきた。遠慮がちに部屋に入ってくる。

「時間ある? 作曲したもの、聞いてほしくて…」
「ああ、いいよ」

それくらいお安いご用だ。今日が初めてでもない。会社に用意してもらった練習室にいると言っても、この時は特に何もしていなかった。できることを思いつかなかったとも言う。

ジェイコブは最近、作曲作業にとても熱心に取り組んでいる。サンヨンも、もちろん頑張っているが、集中力や勉強量が、ジェイコブと比べたらとても少ないと思う。というよりも、ジェイコブが人より何倍も努力しているのだ。
海外同胞出身と言っても、慣れない国で暮らすのも大変だろうに、歌手としてアイドルとして努力する姿は尊敬するし、大切にしたい、いろんな場面で助けになりたい、といつも思っている。

椅子を引っ張ってきて、ジェイコブの席を用意する。そこに座り、ゆっくりと話し出す。部屋は間接照明がいくつか点いているだけで、薄暗い。すぐ隣に座るジェイコブの顔は、淡く照らされて、白い肌が光っているみたいで、とてもきれいだ。

「まだ完成した訳じゃないんだけど。膨らませたいメロディがあって、それが、僕はいいと思うんだけど、人の意見を聞きたくて」

そう前置きをして、ギターを爪弾く。長い間、考えに考えて、生み出したメロディを奏でて、囁くような声で歌う。
静かな部屋に、世界に2人だけしかいないような空間に、歌声が染み込んでいく。サンヨンの心にも、メロディが持つ優しさや愛しさが、溶け込んでいく。

「…どうかな? 聞いてた?」

目を閉じて、うっとりと浸っていたら、居眠りしてたと勘違いしたみたいだ。それはとっても心外だ。

「ちゃんと聞いてたよ。すごくいいと思う。流れるような静かな感じだね。少し前に聞かせてもらったのとは違う曲だよね?」
「うん、そうなんだけど…、似てきちゃうんだ。それも悩む」

少し前にも、こんな風に「聞いてほしい」と来たことがある。違うものを作ったつもりでも、似通ってくることはよくある。

「今のメロディの前か後かを、もう少し明るい感じにしたいんだけど…、あまりいいのが思い浮かばなくて。…ネガティブなんだ。マイナスなの、感情が」

今、イベントやコンサートなどの催しが延期や中止になることが多く、残念ではあるが、その分、自分の時間は作りやすくなった。作業や練習に割ける時間も出てきたのだが、それでもいつも足りないと感じる。だからと言って、1日中部屋にこもって作業していたら、他のメンバーやグループに遅れを取ったように感じて、仕事がない状態が不安になる。

「休む時間も必要だよ。考え続けても、煮詰まったら何も出てこない」
「そうだけど…、休みだからって何もしていないと、なんか、焦ってしまうんだ…」

その気持はよく分かる。切り替えが必要だと感じても、どう切り替えたらいいのか分からない。ネガティブな思考に陥っていると気付いても、ポジティブに持っていくことができない。
今日はもう無理だから、と作業を切り上げても、1人で宿舎の部屋にいると、自分だけ休んでいるようで焦ってしまうのだ。

「分かるよ、俺もそうだ」

手を伸ばして、ふわふわの髪を撫でる。ジェイコブは、少し目を見張った後、椅子ごとサンヨンの方を向く。少し近寄ってきて、頭を少し下げる。もっと撫でて、と言うことらしい。その顔は穏やかに微笑んでいる。可愛さに、にやけてしまう。

「ジェイコブは、よく頑張ってるよ。焦らなくても大丈夫だよ。みんなで、一緒に歩いていけばいいんだ」

丁寧に、ゆっくりと、慰めるように、頭を撫でる。さらさらで、ふわふわの髪の感触と、嬉しそうに微笑む表情が、サンヨンの心も慰めてくれる。

ジェイコブは満足したのか、姿勢を戻して、にこりと笑う。大事にギターを抱えている。曲を作る上で大事なギター。彼のかっこよさや穏やかさを象徴するようなギター。いつも側にあるギターにも嫉妬してしまいそうなくらい、大事なジェイコブ。

メロディラインのことや、曲作りや歌を歌うことや、話をしていくと尽きることがない悩みが顕になる。途方もなくて、たまに疲れてしまうけれど、音楽が好きで、歌手になりたくて努力して、今、歌手をしている。疲れている暇はない。迷った時や悩んだ時もたくさんあるけれど、自分のことを、支えてくれる人が直ぐ側にいる。
ジェイコブが時折、サンヨンの元に行って、自分の音楽を確かめるように、サンヨンもまた、ジェイコブと一緒に歌い、語ることで、自分の音楽を作り上げていく。

「ありがとう、サンヨニヒョン。なんか、うまくできそう」
「良かった。俺も、新しい曲作れそう」

2人で笑いあい、ほっと息をつく。ふと、1つ、気になったことを思い出す。

「ねぇ、さっきの曲、ラブソングにするの?」
「え? …別に、歌詞はまだ、決めてない」

鼻歌程度に歌っていた時、短い間だったが、「Love」や「Like」を聞き取った。適当な歌詞でも、愛を歌ってくれるなら、自分に対して歌ってほしい、と思ったが、言葉にはしなかった。

「Love Song? …僕には、ちょっと難しいよ。愛って、よく分からない」
「恋人に対するものだけじゃなくて、家族や、友達や、メンバーや、もちろんファンに対して、全部、愛だと思うよ。こないだ発表した曲は、人生や自分を慰めるような感じだったじゃない? 次は、ラブソングが聞きたいな」

首をかしげて、ジェイコブが聞く。

「サンヨニヒョン、聞きたい?」
「うん、聞いてみたい」

ジェイコブの言葉で、愛を歌って聞かせてほしい。俺だけに。それは、少し欲張りかな、と思ったが、ジェイコブははにかむように笑う。

「考えてみるね」

そんな表情、期待してしまうじゃないか。

急がなくていいよ、という思いで、肩をぽんぽんと叩く。
ジェイコブは立ち上がる。もう自分の部屋に戻ると言う。名残惜しくて、手を握ると、軽く握り返してくれた。それだけで、安心する。ジェイコブもそうだったらいいな。

「ありがとう。またね」

サンヨンは、ジェイコブが部屋を出て、扉を閉めて、姿が見えなくなるまで、ずっと見つめていた。

ソヌ ✕ チャニ

チャニヒョンはかわいい。チャニヒョンはきれい。チャニヒョンはおしゃべり。チャニヒョンはすぐ拗ねる。チャニヒョンはすぐ怒る。チャニヒョンは、本当に怒ると黙る。

「何、見てんの?」
「ヒョンのことなんか、見てないよ」

メイクされているチャニを見ていたソヌは、すぐに視線を逸らして、素っ気なく言った。冷たく言い過ぎたかな、と思ったが、チャニは別に気にしていない。自分の言動に左右されることなどない。それが、少しつまらなかったり、安心したり。

「ソヌはもうメイク終わったの?」
「うん。俺、チャニヒョンみたいに時間かけなくても、すぐ仕上がるから」

はぁ、とため息をついたチャニから少し距離を置く。いつもこうだ。反論とか、軽口とか、憎まれ口とか、そんなことばかり言ってしまう。それが、少し残念だったり、悔しかったり。

撮影が始まり、ソヌは1人カメラの前に立って、集中する。かっこよく、きれいに、洗練された自分を演じる。気を抜いたら、良い絵にはならないことを、すでに知っている。
カメラマンやスタッフだけでなく、チャニが自分を見ていることに気付く。こういうことにはすぐに気付いてしまう。少し気に入らないけれど、もう認めなくてはいけないのかもしれない。
ずっと見ていること。すぐ気付くこと。目が離せないこと。
「カメラ見て」と言うカメラマンの言葉に、ソヌは集中を取り戻す。今は頭から追い出さなくては、と思う。そうやってすぐに追い出せるなら、苦労はしない。こんなに悩まない。
やはり、悔しいな、と思う。チャニが自分の心の大半を占めていること。

ソヌの番が終わり、次のメンバーに交代する。1人ずつの撮影が終われば、ユニットカットの撮影、その後は全員での撮影、その後はインタビュー。かっこいい自分が雑誌に載るのは好きだけど、時間が長くかかるのが、ちょっと大変だ。

「集中できてなかったね。ダメじゃない。ちゃんとしないと」

チャニの隣の椅子に座り、水を飲んでいると、注意されてしまった。「誰のせいだ」と、思うけれど、これは完全に八つ当たりだから、何も言わない。

「聞いてる?」
「聞いてるよ。自分で分かってる。…ちょっと、調子が悪いんだ」

苦し紛れの言い訳をすると、チャニがソヌの方を向いた。手を伸ばすので、何事か、とその手を避ける。

「調子が悪いって、いつから? 熱でもあるの?」

ソヌの額に触れて、熱があるかどうかを確かめようとしたらしい。ただの言い訳なんだから、そんなに心配してくれなくてもいい。

「熱なんてないよ。スタジオに入る時に、みんな熱を計ってるんだから、無いの分かるでしょ」
「ああ、そっか。それもそうだね」

近頃、どこに行くのにもマスク、体温測定、手指の消毒、面倒だけど仕方がない。うかつに風邪もひけない。

「じゃあ何? 調子悪いって」
「…反省してますから、もう言わないでください」

ソヌは立ち上がり、別の場所に座って待機することにした。背後で、はぁ、と深いため息の音が聞こえた。

1人、機材しかないような端っこで、椅子に座る。ソヌもため息をつく。
俺に構わないでほしい。俺の視界に入らないでほしい。ただの言い訳くらい、見抜いてほしい。子供の相手をするように心配しないでほしい。これ以上、きれいにならないでほしい。俺の心を苦しめないでほしい。
チャニに対する文句をいっぱい考えてみるけれど、どれもこれも、自分勝手な、子供みたいなものばかりで、言いがかりもいいところだ。自分が天の邪鬼で、素直じゃないことは分かっているけれど、こんなにわがままだったのは知らなかった。

チャニに対する時だけ。チャニだけが、ソヌを苦しくさせる。でもこんなこと、チャニには言えない。

チャニは、1人でさっきと同じ場所に座ったままで、携帯を見ている。メールでも打っているのか、指だけが動いている。

いつからだろうか。いつも側にいて、一緒にご飯を食べて、一緒に暮らして、一緒に仕事をして、それだけでいつも楽しかったのに。かわいい弟のままでいいじゃないか。それ以上を望んでも、それ以上なんて無いのだから。

チャニの番が来て、スタッフから名前を呼ばれて立ち上がる。携帯を置いて、スポットライトの下、カメラの前に立つ。
ソヌの携帯にメールが来た。習慣的に画面を見る。チャニからだった。
彼は今、ポーズを取り、格好を決めて、微笑んでいる。少しためらった後、メールを開く。

〈僕、ちょっと過保護だね。ソヌだから仕方がないよ。後でお弁当一緒に食べよ〉

チャニヒョンは大人だ。チャニヒョンは優しい。
素直になれないなんて、まだまだ子供だな、と思う。そんな自分が嫌な時もあるけれど、チャニに過保護にかまってもらえるなら、そんな自分でもいいのかもしれない、なんて都合の良いことを考えている。
カメラの前できれいに笑うチャニヒョンを見る。あんな、上品な感じじゃなくて、些細なことにも大きな声で笑うヒョンの方がかわいい。
同じ文面を何度も読む。嬉しくて、照れくさくて、笑ってしまう口元を手で隠す。

〈仕方ないな。一緒に食べてあげる〉

返事を打って、送信する。すぐに機嫌が治る、結構単純な所は、自分でも嫌いじゃない。

個人の撮影を終えて、チャニがまた携帯を手に取る。返事を読んだのか、チャニがきょろきょろと見回して、壁際に座るソヌを見つける。つんつんと指を差す。生意気な返事だ、とでも思っているのだろう。

やっぱり、チャニヒョンはかわいい。

友情と恋愛のあいだ

友情と恋愛のあいだ

The Boyzのお話。友情より近くて、恋愛にはまだ遠い。K-Pop、BL、FF。 全員、出せたらいいなぁ。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-04-29

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted