仄暗い深淵の者
斎藤陽太
斎藤「はぁ…はぁ…くそ。ユウ。待ってろよ。今すぐ」斎藤はとある潰れた廃工場の中の階段を上から順に降りていた。階段の至る所には血の跡があり、それを踏む度に‥脳裏に見えるのは…彼女である篠宮ユウが何かに追われジワジワと殺されていく風景。
少し前の事である。
斎藤は都内にある自宅にいた。斎藤の家はこの辺りでも有名な家で周囲とは比べ物にならない程大きな家だった。
斎藤「さてと。コーラでも飲むか?」斎藤はそう呟くと…部屋の冷蔵庫からコーラを取り出し…ペットボトルのままラッパ飲みをする。
朝ごはんを作りながら、ふとTVのチャンネルを付ける。ちなみに今日の献立はたまごと食パンのトーストとウィンナーに目玉焼きだ。斎藤は眠気覚ましの為に入れたホットコーヒーを飲みながらウィンナーを焼き始める。その時だった。TVから妙なニュースが流れ始める。
ニュースキャスター「番組の途中ですがお知らせします。今朝未明。都内のアパートから女性の変死体が発見されました。女性の名は涼宮夏恋。警察は事故と事件の両面から捜査をしているとの事です!」
斎藤「物騒だな?」そんな事を呟くと斎藤はコーヒーを一口飲む。その直後部屋のインターホンが鳴り響く。
♪♪♪♪♪
斎藤「どちら様ですか?」斎藤はインターホンの通話ボタンを押してそう声をかける。
??「どちら様って!!?よく言うわね?そんな事?どーせ私の姿もカメラに映ってるんでしょ?」
斎藤「あぁ?ユウか?」
篠宮ユウ「ユウか?じゃないでしょ?陽太。あんた約束忘れてるでしょ?」
斎藤「約束??そんなのしてたっけ?」
篠宮ユウ「ほらぁやっぱりね。今日は私とデート行くって約束したじゃない?」
斎藤「ん?あぁそういえばそうだったかな?」
篠宮ユウ「もうどーせ準備できてないんでしょ?いいからとりあえずココ開けてよ」
斎藤「わかった。」斎藤はそう言うとオートロック解除のボタンを押すとインターホンを切った。
すると部屋の前の扉が自動で開き始める。
ゴゴゴゴゴゴっ扉の中には一台の車があり。ユウはそれに乗り込む。扉から斎藤の居住スペースまでは役5kmあり車を使わないと少々距離が遠い。
篠宮ユウ「陽太の所まで頼むわ」
人工AI「かしこまりました。ユウ様」ちなみにこの車には自動運転機能がついており、人工AIが目的地まで連れて行ってくれる。
斎藤はその間…顔を洗い歯を磨きながら、どんな服を着るかを決めていた。
斎藤「イクシス。洗濯できてる服のリストを5パターン程ピックアップしてくれ」
イクシス「かしこまりました」イクシスがそう言うと、斎藤のホログラムが現れ、様々な服を着た斎藤が出現した。
ちなみにイクシスとは斎藤の住んでる家事態に備え付けられてる人工AIで生活のサポートをしてくれる。
斎藤「これにするか」そう言うと斎藤はイクシスに続けてこう言う。
斎藤「3番の服を用意してくれ」
イクシス「かしこまりました」イクシスがそう言った直後‥2階の部屋のクローゼットが突然開き…イクシスが動かすロボットが斎藤の元へやってくる。
イクシス「お持ちしました」
斎藤「ありがとう。そこに置いておいてくれ」
イクシス「かしこまりました」その後…斎藤は衣服を身に纏い…身支度を整え始める。丁度そこにユウがやって来て斎藤がいる別館に入室する。
斎藤「やぁ…ユウおはよう」
篠宮ユウ「おはよう。じゃないわよ。全くもう何時だと思ってんのよ?」
斎藤「ごめん‥ごめん(汗)」
篠宮ユウ「もう。こっちは日々の仕事でつかれてるんだから‥休みの日まで疲れさせないでよね」
斎藤「だから誤ってるだろ?」
斎藤「警察官も大変だね?例の事件かい?」
篠宮ユウ「ええ。」2人が話す例の事件とは最近この辺りで頻発する原因不明の連続変死事件の事である。
ここ数ヶ月で15人の女性の変死体が見付かっているが犯人に繋がる物的証拠が現場から何一つとして見付っていない。被害者の遺体には確かに何か引きずられ切り刻まれた様な跡がくっきり残っている。事件当日の被害者の行動を分析してみても被害者たちはアパートやマンションから出ておらず、また防犯カメラにも怪しい人物が一人も映っていない。という警官泣かせの事件である。
その後2人は車に乗り込むと斎藤が運転するフェラーリで大阪まで向かった。途中の山荘で運転に疲れた斎藤は自動運転機能をONにすると…タバコを口に咥えふぅーっと息を吐く。
篠宮ユウ「どうしたの?もう疲れたの?」
斎藤「るせぇーよ」そう言うと斎藤は強引にユウの唇を奪う。
篠宮ユウ「うっ…!!!!?はぁ」次第に2人は激しく口を絡め始める。プチゅっぴちゅ…ブチュ。車内にそんな生々しい音が響き始めると斎藤はそれをかき消すように音楽を鳴らし始める。
服を脱がしそっとユウの胸元に手を触れると激しく揉みしだく…そうした性行為が行われながらも車は目的地へとたどり着く。
時計を見ると時刻は昼の13時を回っていた。時間を確認した斎藤はおもむろに口を開く。
斎藤「とりあえずメシにするか?」
篠宮ユウ「そうね?何にする?」
斎藤「何って?大阪に来たらあれしか無いだろう?」そう言うと斎藤はユウの手をひいてとある飲食店へと入っていく。
そうしてユウと斎藤がデートをし始めた頃…都内にあるアパートではまたも女性の変死体が発見された。
?「またこの手口か?」
??「警部…何なんでしょうかね?この跡?」
大上「わからん。だが同一犯の犯行である事は間違いなさそうだ。」
大上「おい八神…害者の身元は?」
八神「はっ!!被害者は井上沙弥…都内に住む22歳のOLの様です。」
大上「OLかあ?」
八神「いったいこの事件の犯人は何の意図があってこの様な犯罪を犯すのでしょうか?」
八神「被害者は皆女性ばかりで…10代と20代だけを狙っている。それ以外にこれと言った共通点はなく…交友関係もまばらで怨恨の線も薄い。」
大上「知るか!!?そんな事…?それより八神こいつを見ろ」大上がそう言った先には血文字で書かれた(S)という文字とその周囲に渦巻くハエと被害者である井上沙弥のくり抜かれた眼球があった。
八神「ひっ!!?眼球が!?」
大上「狼狽えるな!!?」
大上「(S)?いったい何なんだ?この文字は犯人のイニシャルか?」
大上「八神…被害者の周辺にSとついたイニシャルの人間がいないかどーか調べるんだ」
八神「かしこまりました」
その頃…斎藤は彼女と宿泊するHOTELの中で…夢を見ていた。ジワジワと彼女を殺していく何か?は斎藤を見ると薄ら笑いをして姿を消す。数秒後…斎藤は廃工場の扉を開ける。扉の外には廃工場から続く寂れた歩道橋がかかっており…ふと下を見ると血の川と無数に転がる遺体が目についた。
斎藤は歩道橋の上からその情景を見て言葉を失う…
斎藤「何だ…?これは?」
川に転がる遺体の損傷は酷く…まるでゾンビ映画に出てくるゾンビさながらの死体だった。時折ポツンっポツンという音が聞こえてくる。恐怖に顔がこわばった数秒後…斎藤は目を覚ました。
斎藤「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ(汗)」辺りを見渡してもユウの姿はいない。
斎藤「ユウ!!?ユウ!!?どこに居るんだ?」斎藤は血相を変えてHOTELの扉を開けると…走り出す。数秒後…自販機の前で女と楽しげに話すユウの姿を見る。
斎藤「はぁ…はぁ…はぁ…(汗)良かった。ユウ」
篠宮ユウ「どしたの??そんなに汗かいて?変な陽太?」
斎藤「すまない。何でもないんだ(苦笑)」そう言うと斎藤は作り笑いをしてユウを和ませようと顔を見る。ふと…ユウの後ろが気になり続けて声をかける。
斎藤「あれ?さっき迄いた女性は??」
篠宮ユウ「女??そんな人いないわよ!!あ!!あんたそれで血相変えて走ってきたのね?なに?もしかしてその女…私に知られたく無い相手だったの?」
斎藤「いや(汗)そういう訳じゃないんだ…?」
斉藤「心の声(おかしいなさっきまで確かに?)」
篠宮ユウ「怪しいわね??絶対そうでしょ?」
斎藤「んな訳ねぇだろ(笑)?」
篠宮ユウ「まっ!!それもそうか(笑)?あんたにそんな器用な事できる訳ないもんね?」そう言うとユウはおもむろに何処かに向けて歩き始める。
斎藤「おいっ!!?どこ行くんだよ?」
篠宮ユウ「何処って?んなの決まってるでしょ(笑)」
その様子を遠目で見詰める一人の女が居た。名は東条くみ…陽太の元カノでユウの元親友である。
??「どうしたんだ?くみ?怖い顔して?」
東条くみ「えっ!!?(汗)ごめん!!?私そんな顔してた?何でもないの(笑)」くみはそう笑顔で誤魔化す。
東条くみ「それより…小林くんあっち行こ(笑)」くみはそう言うと小林の腕を掴み歩き始める。
その頃…何処ともわからないビルの1室で一人の女性が怯えていた。
??「うっぅう…なに?何なの?ここ?」辺りを見渡すと無数に転がる遺体…壁には(S)と書かれ…何処の文字とも知れない意味心な文字が刻まれていた。
よく見ると息をしているのか?生きている人間もいるようである。
??「!!?」
??「あなた?まだ生きているのね?ねぇ?ここが何処だか教えて?ねぇ??ねぇったら」女の悲痛な声に今にも息絶えそうな男はをただ扉を指差す。
男に釣られるように扉を見た女は意を決したのか…歩き始める。ドアを開けると…そこは薄気味悪い所でやはり壁一面に(S)と書かれていた。
遠くの方からポツンっポツンっと水が落ちるような音がする。女は震えながらも出口を見つける為に歩き始める。
??「なっな何なのよ?ここ?」
暫く歩くと…一つの扉の前にぶち当たった…扉を開けると赤く染まった空と歩道橋が目に止まる。近くまで近付いて見ると…歩道橋の下に川があり…無数の遺体が転がっている。
女はその情景に言葉を失い…あまりの恐怖に膝から崩れ落ち涙を流す。
??「うっうっふううっ何で?何で?あたしばっかりこんな目にあうのよ」
そんな事を呟く女の脳裏に浮かんだのは…これまでの出来事である…学校でイジメられ家でも実の父親に暴行され…心身共に疲れ切った女は首を吊って自殺しようとした。けれども…女は死に切れずに…辛く悲しい学生時代を過ごした。やっとの思いで…家を飛び出した先でも先輩から激しいイジメにあい…何度もリストカットをした。
そんな日々を思い出しながら女はその場に佇みただ涙を流す。
女は涙を拭こうと顔をあげた。ふと川の向こうに白い衣服を身にまとった長い髪の女がこちらを睨んでいた。それを見た女は思わず声をだして呟く…。
??「ひっ(汗)なに?何なのあの女?」
次の瞬間…女は再び目を覚ます。
?「安田さん大丈夫ですか?」
安田「え?はい…」
?「良かった!!すぐに先生をお呼びしますね?」
安田「心の声(なに?ここ病院?)」
安田「心の声(さっきまでいた女は何処に行ったの?何でいきなり病院にいるの?)」
??「美沙子ぉ…心配したぞ!!うう(涙)…」
安田「兄さん!!?何でここに?」
安田(兄)「何でじゃないよ…!!?全く心配させやがって」
暫くして医師がやって来る。医者の話によると…美沙子は駅のトイレでリストカットをし…意識不明の重体だったらしいとの事。不審に感じた警備員が安田に声をかけ応答が無かった為確認しに行ったところトイレで気を失っている美沙子を発見したそうだ。
事の顛末を説明し終えた医師が…美沙子の具合を少し見てその場を後にする。
美沙子はその話しを聞いて少し残念そうな顔をすると…空を眺める…。
安田「心の声(そっか?私は死ななかったんだ…?)」
その日の夜…トイレに行きたくなった美沙子はベットから起き上がり…歩き始める…脳裏に浮かぶのは気を失っている時にみたあの情景。
赤く染まった空と…歩道橋…無数の遺体。何かが起きて…多くの遺体が川に放置されたまんまになったような…?あの情景。川の向こうからこちらを睨み付ける女。
美沙子はそんな事を思い出しながら蹌踉めきながら歩く…ふと4階の窓から地上を見降ろした時だ…
ポツン…ポツン…何処からともなく水の音がする。その音が近付くにつれて美沙子の頭が痛くなる。
安田「痛っなに…これ?」
安田「うっ…くっ痛…い」
何度目かの水滴が落ちる音がした頃…美沙子は意識を失いその場に倒れ込む。
その頃…斎藤は彼女と宿泊するHOTELにいた。斎藤の彼女である篠宮ユウは現職の警察官である。その為しっかりとした休日は実質ないと言っても過言ではなく…急な呼び出しがあれば行かなければならないというのが実情だが…今回は捜査の一環も兼ねて大阪まで来ている。
というのも…殺された16人の被害者の内…鈴川…広瀬…山本の3人の被害者が殺される数日前に利用したとされるHOTELがここで‥ユウは斎藤との甘い休日を過ごしながらも…被害者3人がこのHOTELに来た際の行動について調べていた。
篠宮ユウ「オオトリ…このHOTELの中で被害者たちが利用したとされる部屋を特定して」
オオトリ「了解致しました。」
オオトリ「HOTELをスキャンします…しばらくお待ち下さい」
数秒後…オオトリが口を開く。
オオトリ「解析完了…解析完了…解析結果をスマホへ転送します。」
篠宮ユウ「…なるほど?全員が3階の利用者なのね?しかも同じ部屋??」
オオトリとは捜査用に開発された警察官専用AIで…様々な情報をこれ一つで入手する事ができる。オオトリ内部には被害者たちの詳細なデーターが入っており指紋や毛髪に至るまで事細かな情報が記載されている。スキャンする事によって建物全体から被害者がHOTELの中で利用したとされる部屋をドアに付着する指紋から特定したり…被害者がよく使っていた靴のデータを元に…同じ形状の靴を利用した人間がHOTEL内で通った経路までわかるスグレモノである。
篠宮ユウ「ん?全員がHOTEL内のとある場所に向かっているわね?」ユウはそんな事を呟くと…ナビに従い歩き始める。被害者3人が利用してた部屋は3階の311号室。このHOTELは1階部分と2階部分にフロントがあり…本館に360室新館に1300室の客室が存在し内訳は以下の通りとなっている。
1階フロント
5~18階(360室)(新館)
シングル:185室ダブル:89室ツイン:63室トリプル:23室=360室
2階フロント
客室3~24階(1,300室)(本館)
シングル / セミダブル:647室ダブル:103室ツイン:481室トリプル:68室その他:1室=1300室
篠宮ユウ「ここか??オオトリ?この奥には何があるの?」
オオトリ「どうやら現在は使われていない隠し部屋がある模様です。」
篠宮ユウ「隠し部屋ねぇ?ま、これだけ大きいHOTELなんだから当たり前ね?」そう言うとユウは手元の端末を操作してHOTELのフロントへ回線を繋ぐ。
♪♪♪♪♪
フロント「はい。こちらHOTELグラン…フロントでございます。」
フロント「本日はどういったご要件でございますか?」
篠宮ユウ「こちら警視庁刑事部の篠宮ユウです。支配人に繋いでくれますか?」
フロント「警視庁の??かしこまりました。少々お待ち下さい」
数分後…内線が繋がり…支配人に繋がる。
??「こちらHOTELグランの支配人を務めております。高倉と申します。篠宮さま?どうされましたか?」
篠宮ユウ「高倉支配人…本館7階に隠し部屋がありますね?この先には何があるのかしら?」
高倉「やれやれ知られてしまいましたか…7年程前の事です。とあるカップルが利用した715号室という部屋がありました。」
高倉「その時の事です。そうあれは…雨の強い7年前の11月14日」
7年前…11月14日…
?「レン‥まだぁ?」
レン「待ってなよ。LiSA。今いいとこなんだ」そう言うとレンはHOTELの1室でとある人形に何かを詰め込み…慌てて人形の裏側のチャックを閉める。
LiSA「ねぇ?何なの?この人形」
レン「ん?ただの人形(笑)」レンはそう言うとニッコリ笑い…人形をそこにおいてLiSAの唇を奪い始める。
LiSA「ん…ふぅ…はぁ…レン」
プチゅ…ジュウ…ジュルそんな生々しい音がHOTELの一室にこだまする。レンはそのままLiSAを押し倒し…衣服を脱がせブラを無理やりズラすと乳首を口の中で転がし始める。そのままの勢いで首…耳を攻め…そっと耳元でLiSAに呟く。
レン「人形なんてどうでもいいだろ?今は俺の事だけ見てろ。」そう言うとレンは…再びLiSAの唇を奪い始める。
それから何時間しただろうか…すっかり眠ったLiSAは突然目が覚める。みるとさっきまで横にいた筈のレンの姿がない。代わりに置かれているのは兎の人形と…彼の衣服。
不審に思ったLiSAは部屋を探索し始める。
LiSA「ねぇ…?レン?何処行ったの??」LiSAはそう呟きながら浴室を開ける。
そこには赤く染まった人形が置かれていて…こちらを恨めしそうに睨み付けている。
LiSA「ひっ…何なの?これ?」LiSAはそう言うと恐る恐る人形に近付く。人形は赤く染まっていて…生臭い何とも言えない匂いがする。
ズゥィィィ----浴室にジッパーが開かれる音が響き渡る。
ゴクッ♪♪♪
LiSA「そんなはずないわよね?」LiSAはそう呟くと意を決心したのか…人形の中に手を突っ込む。中に入っていたのは何かの物体と…髪の毛が入った透明のポリ袋。
LiSA「ひっ!!?な…何なのよこれ!?」物体は相当腐っていたのか変色し…髪の毛は所々縮れていた。LiSAは思わず恐怖のあまり物体を投げ付ける。
ドンッ♪♪♪♪♪そんな音が響いた数秒後…突然浴室の照明が落ちる。
LiSA「意味わかんない…何なのよこれ!!?」LiSAはそう叫びバスローブ姿のまま思わず部屋を飛び出る。
それから何時間過ぎただろうか?LiSAは駅のトイレの中に居た。
ガクガクガクガクッ恐怖に怯えるLiSAは震えているようである。その時だった不意に女子トイレに男の声が響き渡る。
レン「リィサぁ?何処行った??」
LiSA「心の声(レンッ!!?)」
LiSA『ここよっねぇレン』
LiSA「心の声(あれ?声にならない。私どうしたの?)」
レン「リサァ?ここにいるんだろ?なぁおいっ!!」
レン「聞いているのかぁ!!!?」
レン「開けろ!!?お前あれ見たな?」
LiSA「心の声(嘘‥でしょ?レン。どういう事?あれってあの人形の事?)」
ドンドンッドンと次第にトイレのドアを叩く回数は増えていき…気付けば…鬼の様に叫び散らすレンがそこに居た。
レン「おいっ!!リサァァァァ…!!?」
LiSA「心の声(ひっ!!ねぇ?嘘だと言ってレン?私どうすれば…)」
突然トイレの照明が落ちて…辺りが暗くなる。
LiSA「ひっ!!?灯りが」思わずLiSAはそう声を発してしまう。
数秒後…トイレの電気がつく。怯えたLiSAは恐怖のあまり下を向いていた。目を開けるとそこには人影のような物があって恐る恐るLiSAは上を見上げる。
レン「何だぁ(笑)?リサァ…やっぱりここに居たんじゃないか?」レンはそう呟きニンマリ笑う。
LiSA「キヤァァァァァァァ…!!!!」
そんな声がトイレに響いた数秒後…LiSAは再び目を覚ます。みるとそこはさっきまでいたHOTELの部屋でレンは横でぐっすり眠っていた。
LiSA「はぁはぁはぁ…夢?」
LiSA「何だ…?良かった。」
LiSA「ねぇ?レン?起きてねぇったら?」LiSAはそう呟き…レンを起こそうとする。ふと自分の手を見たLiSAはゾッとする。
LiSA「心の声(えっ!!?血?何これ?私まだ夢見てるの?)」
よく見ると…ベッドのシーツが赤く染まっていて…レンの胸にはナイフが刺さってる。
LiSA「心の声(あっはは??夢だ?これはきっとまだ夢の中だ。嘘よ。だってレンが死ぬわけ無い。レンは?)」
LiSAはそう呟くと…ベッド際においてある薬を1錠飲んで水を飲み込む。
LiSA「落ち着くのよ。LiSA。これは夢なのよ。ここから抜け出す方法はあるはずよ。」
そんな事を呟きながら数時間が経過した。時刻は朝の9時半過ぎ…あともうすぐでチェックアウトの時間である。
LiSA「心の声(嘘よ…だってそんな事あるはず無い。これは夢。夢だと言ってねぇ!!?レン)」
ふとLiSAの耳元で【首を吊れば良いのよ】という女の声が聞こえる。
LiSA「首を?はっ!!そっか?これは夢なんだから死…死ねば良いのね?」LiSAはそう呟き…ベッド脇の服を引っ掛けるような棒の所にバスローブの帯を括り付けると自身の首にも巻き付け始める。
LiSA「こっこれで悪い夢から出られるのね?」そう呟いた直後…LiSAはバスローブの帯で首を吊ろうと試みる。
数秒後…帯が解けて床に落下する。
LiSA「痛っ!!!?」
LiSA「おかしい。おかしいわ。何で夢なのに痛いの?」気が動転したLiSAはそう叫び涙を流し始める。そんなLiSAの耳元にまたもこういう声が聞こえる。
【だったらそこから飛び降りれば良いのよ。】
LiSA「ひっうううっうふぁ…そこ?」LiSAは一言そう呟きおもむろに立ち上がり…7階の窓を椅子で叩き割る。
ガシャァンッ…ガラスの破片が飛び散りLiSAの足を傷付ける。
LiSA「ひっううぅぅ‥こ‥れで…これで…なが‥い夢から覚めるのね?」LiSAはそう呟くとそのままHOTELの窓から落下して死亡した。
その後‥異変を察知したHOTELの従業員が部屋で見たものは…割れた窓と刺された男。そしてその横に横たわる血塗れの人形であった。後の調べで…人形の中に腐った人間の指と髪の毛が入っており…1枚の写真が同封されていた。
裏側には…【LiSA…。】とただ一言書かれており…警察の賢明の捜索の結果…指の持ち主はLiSAというこの男の元婚約者の者である事がわかった。
指以外の遺体部分は現在も発見されておらず…あの日HOTELの従業員が目にした女の存在が誰なのかもわかっていない。それがLiSAなのか?LiSA以外の何者かすらも…割れた窓の下には何も痕跡は残されておらずただ破片があちこちに散乱していた。
仄暗い深淵の者