硫化ノスタルジウム(自選短歌)

龍 佐秋

硫化ノスタルジウム(自選短歌)

障子溶く赤き朝日の部屋に満つ

 誰か死にたるやうにし思ふ


夏風が肌にまつわる懐かしき

 祭囃子が遠く聞こえる


十九歳の夏の夜風は生温(なまぬる)

 ヘッドライトの先へ吹き過ぐ


夜走る明かり流れる過ぎてゆく

 ラジオを刻むウィンカーの音


「生きにくい」呟く声を聞く耳の

 隣の瞳もいつも悲しい


夕立の拝島橋を走りゆく

 車の上を急ぐ白鷺


ととがなし奄美の言葉で手を合わす

 教えてくれた祖母の墓前に


野隠れの薔薇は咲きけり人のため

 ならず己れの道に生くため


奥山の落ち葉の隠すどんぐりを

 拾う幼き僕に会う秋


かの花は赤き葉となり秋桜(あきざくら)

 誰の肩にや今落ちにける


夕焼けに遠く山並み冴えわたる

 空の青さをうちに残して


街灯にきらめくようなたむしばの

 氷る莟をひとり見上げる

硫化ノスタルジウム(自選短歌)

硫化ノスタルジウム(自選短歌)

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-04-29

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