神さまの映画

あおい はる

 都会のすきまに、やさしさがにじんでいた。雨が降る。ノアがみたのは、たぶん、まぼろし。いたずらな神さまがきまぐれにつくった、フィクション映画みたいなもの。星の崩壊。宇宙のどこかで、破裂する星々。にんげんどうしのいさかい。生命体の遺伝子細胞が、みるみるうちに腐ってゆく。花は首を折られて終わる。電話ボックスにつめられた、海月。真夜中の一瞬、空と海が交錯して。ノアがつぶやく。「きれいだ」
 ああ。もう。ふるえるくらいの愛が、そこに放置されていたときの、あの、歯痒い感じを、だれかの奏でるピアノの音色にのせて、朝をぬりかえてほしい。みずうみの底に、忘れ去られた七百年前の、朽ちた街と、くじらの化石。あらゆる矛盾を、ひとつひとつ、ていねいに突き詰めてゆく、現代人が取捨して、選別して、生かして、殺していく時代のなかで、どこか浮足立っている、ノアのよこがおを、ぼくはしっとりとながめている。二十一時。

神さまの映画

神さまの映画

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-04-28

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