嘴の兵士

露華

僕は兵隊だった。まだ幼い頃から、みんなが兵隊の訓練をする。僕はまだ幼かったけど、立派な嘴を持っていたから、志願した。
みんなが、より良い暮らしができるように仲間を守るのが僕の仕事だった。
けど、いま僕はみんなを裏切りました。

置き手紙だけ残して、こうして夜明けの、空の大気に羽ばたいています。
あかっさん、おとうさん。ごめんなさい。

僕、星をいつも、みんなが寝静まっても、じつと眺めていました。
いつしか、みんたがより良い暮らしができるのはあの夜空にある、星の国のような気がしたのです。

僕は卑怯者です。みんなが、敵に討たれるのも、ぼくが敵を討つのも、
こんなことは哀しくて、いつも涙が尽きるまで泣いて一夜を明かし、そうしてずうともがき苦しんできました。
僕の、命はそうした世界から与っているのにおめおめ、逃げ出して、
みんなを守ることもせずに、こうして不孝になってしまいました。

いつしか、雲の海を羽ばたいていました。
硝子のような、雲の薄い飛沫を浴びながら、
どこが空か、大地か、
天地の、感覚さえわからないまま。

視界は涙いっぱい滲んで、零れるままに、謝りたくて、みんなの場所に戻りたくて、
それでも飛び続けました。

おい!みろ、みろ。あそこに九郎兵衛がいるぞ!
みんなが、ちらりと見れば、
螺旋のように落ちてゆく、嘴の立派な仲間がいました。
しかし、みんなふいと前を向いて、飛び続けました。

唯一、お母さんとお父さん、そして友達だった仲間が哀しそうな表情を一瞬だけ、したけど、またすぐに厳しい目つきのまま、
みんな、より良い暮らしのために、南を目指して飛び続けました。

嘴の兵士

嘴の兵士

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-04-28

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