春に修羅

 手、指の、皮膚が隆起しているのは、きみの体内に寄生する、植物のせい。共存、ということで和解したのだと、きみは云って、わたしは、和解、という言葉の、妙にしっくりくる感じを、ちょっと気持ち悪いと思っていた。からだのなかをはう、つる草と、きみは、どこまで通じ合っているのか、テレパシー、なんらかの伝達手段を用いて、意思疎通をしているのかもしれないし、そもそも、ひとつのからだを共有するということは、内部で、きみと、植物の意識が同時に働いていて、ざっくばらんにいえば、左はんぶんがきみで、右はんぶんが植物みたいな、そういう感覚なのだろうかとも想う、午后八時の、かろやかなさびしさ。この季節。バニラアイスクリームが、やたら美味しい気がするの。春と夏のあいだの、ときに冬の名残をまじえて、不安定に波打つ、心電図のような気候。わたしときみがいる星の、きまぐれに歪む瞬間に、フォークの先端で食器をひっかいたみたいな音が、神経をも歪にさせるの。そういう気配を、動物園のライオンが察知して、かなしげな声で鳴く夜のどうしようもない、いらだち。きみが咳をして吐き出す、種。バッグから転がり落ちた、メイクポーチ。こなごなになったファンデーションをみたときの、あの、あの、もう、すべてがいやんなるときの、甘やかな殺意。

春に修羅

春に修羅

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-04-27

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