東京の断片 -chapter1-
第1話 小さな出版社
なんで東京に来たのか
地元に残ればよかった
この時代に
歌詞カードだけ拾って
どうしろって言うんだ?
山手線で景色みてた
ここに必ず戻ってくるんだと
ピックアップして
選んでみたのはいいけど
傷ついて帰ってきたのはいいけど
信じ続けることに限界があった
たぶん は、ないこと
ふわっ
と
浮いたまま
激しく、激しく、
それから静かになった
第2話 仕事
「くたばれ仕事」
打ち込んだノートパソコンにひれ伏す
「妥協してるんじゃなくて、生活してるんだ」
何してるんだって振り返ってみても
芋づる式に替わりがある
「笑顔になろうとも思えんな」
退勤して、コンビニで明日の休日を考えている
「孤独とかそう言うものは聞き飽きてるから、他の話題をお願いしますよ」
動画サイトに癒してもらおうなんて気もしない
話題を探して、山手線を回ってるみたいだ
ロウソクがあったら、
消したいよ
ふっ と
電車の窓
また通り過ぎるよ
通り過ぎるよ
第3話 ホーム
コーヒーに憧れたのは、理由があった
疲労を抱えながらも、一息ついて
窓の外の景色を見つけた映画のワンシーン
映画になりたかったの?
大して幸せになれなかったな
幸せの街を探してたんだろか
「コーヒー冷めちゃうんじゃない?」
第4話 ラッキーストライク
「タバコ」
こっち来てから吸い始めた
もし地元に残ってたなら、吸ってなかったのかな
ラッキーストライク
「何がラッキーだよ」
アウトコース低めの外に逃げるボール球ばかり振ってる
換気扇回すの忘れてた
まあ、いいか
「地元に残ってたなら、結婚してたのかな」
「タバコ」
これは、変な間を埋めてくれる
これが、行間を読ませる
会話の間が、もともと嫌いだった
「アパートの一室で見つかった男性の遺体
第一発見者は、交際相手の女性
死因は頭部が切断された状態で 」
「耐えられなかったんだろうな」
換気扇回さないと、淀んでゆく
「まわそっか、煙きらいだったな」
換気扇回して、煙が音を立てて吸い込まれーー
人生が
ぽかっ と
空いたら
もし地元に残ってたなら、幸せになってだんだろうか
「そっちの俺、俺はどうですか?」
第5話 東京の向こう
夜を見ていたら
遠くの方まで意識が広がった
スカイツリーから眺めた
ある高さから、物事を眺めたとき
僕の意識が、遠景にまで伸びてゆく
その時ーー
果てしない後悔と、出来たかもしれない事が
胸の内に浮かび上がった
お父さんや、お母さん
おじいちゃんや、おばあちゃん
親戚のおばさんに、おじさん
中学の後輩や、同級生
小学校からの付き合いの友達
昔、近所にいた幼なじみ
胸の内に浮かび、広がった
第6話 水蒸気
コメントしたら、コメント返ってきて
友達になった
そんな簡単な話じゃない
スチームのように、湧いた夢
追いかけて、東京に来た
透明が可視化された夢
湯気だけ見えた
瞬間湯沸かし器の
夢
気づいたら、
気化して、消えてったもの
友達
第7話 孤高の猫
「おじさん、おじさん」
誰のこと言ってんだ?
「おいらは孤高の猫」
よく言うよ
「あんたが思ってるよりもタフなんだよ」
なんだって?
「東京で何年も立派に野良猫やってるよ」
ほう立派なもんだ
「どうぞ、どうぞ」
なんだよ?
「ここに座ってみんしゃい」
おまえどこから来たんだよ?
「あんた路上ってもんをわかっちゃねえ」
オレ浮浪者ではないよ?
「わしは、路上で見てきた
猛スピードで駆け抜けてくひと
安全運転でも道を間違うひと」
それで?
「手遅れも、先走りも、違反者も
浮浪者も、身なりの良いものも、知っている」
「ほら、わしの背中を見てみい」
はあ、立派なもんだね
「無事故無違反無免許」
おい!
「猫の巣を知らないだろう」
なんだいそこは?
「あんたに“幸せ”を教えてやろう」
それから、彼の眼前に
猫の巣が広がった
「わたし達は何処へ向かうのか」
「あんた、“どこ”を視ていた」
「あんたの年齢で観る“東京物語”はどういう映画になるんだろうねえ」
第8話 置き場所
「父さん、あのバイクもう売るんだって」
だって、あのバイクまだ乗れるでしょ?
「うん」
父さんチョコチョコいじってたみたいだし、
ほら、いつものバイク屋で見てもらってたしょ?
「でも、父さんもう歳だから」
歳って…まあでも
「父さん、こないだ転んじゃってね」
「だから、あんたのとこに置けない?」
父さん…いいって言ったの?
「うん。たまには、こっちに帰ってきて
そのまま東京まで乗って帰ったらいいじゃない」
「 もう、置き場所がないの 」
父さんが亡くなって
まだバイクは元気にやってる
置き場所を作ったから
元気にやってる
東京の断片 -チャプタ1-完
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