半径一キロの世界

最近わたしはよく夢を見るようになりました。それがとても奇妙なものなのです。わたし一人が押入れの中に入って泣いていたり、孤独でひとり見知らぬ土地に旅立って行くのですがそこで特別な人に出会ってお互いに抱き合って励まし合ったりするのです。    その人は顎髭を生やしていて帽子をかぶっています。服装は紺色のジャージを上下に着ています。そこでとても困難な状況がわたしの身に起こります。            その人から引き離されてしまうのです。わたしは両手を広げて何とか相手の手を取ろうと努力するのですがその人はにこやかに笑いながら手を振るではありませんか。わたしは見捨てられたと思って悲しくなってしまいます。他人ですがそれでもわたしはその人に親近感に似たものを感じていました。何故だか分かりませんがその時、わたしは一人の女性を思い浮かべてしまいました。とても愛していた女性です。わたしにも恋愛をしていた時期がもちろんありました。今は不毛地帯のように、恋焦がれるということは無くなってしまいました。そこに種が蒔かれることを願ってはいましたがわたしには枯れた草原のようになっていました。とても残念なことです。誰かが種を蒔くべきなのです。わたし一人では到底無理なことでした。それは他人任せだという人もいるかとは思いますが、わたしは末期の癌患者のような状態だといえるかもしれません。愛という文字が不足していました。誰かに愛されなければなりませんでした。それは最重要課題でした。そして孤独にも苦しんでいましたが、わたしよりも不幸な人たちを思い浮かべて安らぎを味わうこともありました。しかし結局それは肌に爪を立てることでしかありませんでした。わたしは誰かに、見知らぬ誰かに愛されているんだと強制的に思おうともしました。たとえば神のようなものがいてわたしをよそから見守っているのだとも。しかしそれは徒労に終わりました。わたしは無神論に傾きました。外国人のように。では一体どうしたらよいのでしょう。愛する人は何処を探せばよいのでしょうか?
わたしは新たな夢を見るために今日もまた眠ります。そして愛を求めて今日も目覚めます。

半径一キロの世界

半径一キロの世界

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-27