不変回路
たいせつにしたかったものを、あっさり手離せてしまったときの、あの、まちがえて虫を噛んでしまったかのような、嫌悪を通り越しての、絶望。朝のおわりに、森のなかで、真夜中のバケモノと交わったまま眠っていた、ぼくを、ゆるしてくれたのは全知全能の、偉大なる母。体内で、時間の経過と共に死んでゆく、バケモノの残滓を、抱いて、いっそのこと、森と同化したかった。あたまがおかしいって嗤われてる。機械仕掛けの都市で、しんじられるのはやわらかなからだをもつ生きものだけで、真夜中のバケモノは夜色の指を這わせて、ぼくを酩酊させる。孤独は平等で、愛だけがいつも公平性を欠いて、にんげんは四六時中、愛に飢えていたように思う。しばらくにんげん社会から遠ざかっているあいだに、なにかが変わっているかもしれないけれど、たぶん、きっと、永久的に不変な事柄があるからこそ、にんげんはにんげんとしていられるのだとも想う。しかし、なぜ、もうすこし融通をきかせてくれなかったのか、性別とか、種族とか、とちゅうで自由に変更できればいいものを、転職みたいに。そうしたら、ぼくは迷いなく、真夜中のバケモノとの子孫を残して、森の一部となるのに。ああ。
不変回路