【超短編小説】影

六井 象

 道を歩いていたら、足元からバサッ、と音がした。足元に目を落とすと、ぼくの影が影の傘をさしていた。直後、空からパラパラと雨が降ってきた。いつもこうだ。ぼくの影はいつもぼくより一足早く行動する。正確には、ぼくの影はぼくのものではないからだろう。以前両親に聞いた話では、ぼくにはぼくが幼い頃に死んだ兄がいて、その兄が死ぬ直前、自分の影を形見分けとしてぼくに託したらしい。ぼくは何も覚えていないけれど、きっと優秀な兄だったのだと思う。そういえば、ぼくがクラスの女の子に告白した時、一足先に影が女の子の影とキスをしているのを見たのは恥ずかしかったなあ。ああ、雨が本格的に降り出してきた。まるで今雨に気づいたみたいな小芝居をしながら、近くのコンビニに飛び込んだ。

【超短編小説】影

【超短編小説】影

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-04-23

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted