埃の匂いのする、檻の暮らし。小さな、窓からは草花が生い茂り、冬は雪が積もる。
透き通った結晶が、一面に降り、やがて降り積もってゆく。窓の隙間から、牢にまで吹き散る、それを優しく手に乗せ、まじまじと眺めれば、それはもう美しい結晶が、幾何学模様に透き通っていました。

そうして、ハッとするのです。そうです、結晶はみるみる水滴となってしまって。
少女はみるみる、涙が溢れました。

初めて触れた、その冷たさと美しさはやまあらしのジレンマのように一緒にはいられなかったからかもしれません。

少女は、いつしか、部屋の隅から布団をかぶって静かに眺めるようになりました。
そうすれば、もう関わり合いこともなく、悲しいこともありませんから。

名もない少女は、
いつも備え付けの布団から、この肌寒い季節の、雪が積もってゆくのを心待ちにしてました。

灰の部屋。ただ静寂だけが、ここのすべて。

いつしか、少女は頻繁に咳をするようになりました。だれも、心配などしません。
たまに、訪れる人々は、時たま、同情のような眼差しをしながら、食事を置いたら去っていきます。

日に日に弱って。ついには貧しいご飯すら食べられなくなりました。もうすぐ、冬の季節。

寝たきりになったまま、しばらく生活してしましたが、とうとう、少女は窓の下までなんとか、歩いて座り込みました。少女は雪を心待ちにしていました。そうして謝る、のです。
ごめんなさい。もし、叶うならば、また雪と触れ合いたい。今度は仲良くしたい。

その晩、雪が降りました。少女は窓の下に座りながら眠りに落ちてました。静かに降り出した雪。
地上では、みんなが賑わっています。

けれど、ここはあまりに静かに、雪の音に満ちている。ひらひら、と雪の、透明な粉が、少女の手に降り出したけれど、今度は決して、溶けることはありませんでした。
軽く、降り積もっても、一緒でした。

翌朝、お手伝いの人々が、様子を見たら、そこには少し、笑みを浮かべた少女が雪に埋もれながら眠っていました。おわり。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-04-23

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