舞茸長者

草片文庫(くさびらぶんこ)

舞茸長者

子ども昔茸ばなしです。


 茸採りの男は、毎年必ず舞茸が生える山奥のブナの木をめざして、慣れた道を歩いた。道といっても獣たちの通り道にすぎず、慣れない人にとって、羊歯が生い茂るただの山の中である。だが男にとって、そこは道だとわかった。
 背中には、新聞紙の入った大きな籠と、腰には握り飯と水の入った竹筒、それに、酒の入った小さな竹筒を八本束手ねて、吊るしていた。
 その男の採る舞茸は、格別に大きく味がよい、と評判であった。誰にも教えたことのない、舞茸の生えるブナの木を、数本知っているだけではなく、彼にとって秘策があった。
 本当にそれがよい結果をもたらしているのかどうか、わからなかったが、お礼のことばと自分で作った酒を舞茸に振り掛けるのである。
 小一時間も歩くと、数本のブナの木が立ち並ぶところにでた。一本のブナの根本に立派な舞茸が発育していた。
 男は大きな籠を背中からおろし、舞茸の神様、今年もお恵みありがとうございました、と深々と頭を下げた。そうして、一本の竹筒の酒を舞茸に振りかけた。舞茸はほんのりと赤味が増したようにも見える。男はいつもそう思うのだが、それも気のせいかもしれない。
 そうなった舞茸を根本のところからゆっくりと丁寧にもぎとった。
 舞茸を新聞紙にくるむと、籠の底にそっとおいた。
 籠を背負うと次の場所まで歩いた。そこには一本しか生えていなかったが背の高いブナの木があった。
 そこにも舞茸は、それは見事に生えていた。
 男は先ほどと同じ儀式を行って、舞茸を採った。
 三つ目に行ったところには、一本のブナの根本に三つもの舞茸が生えていた。少し小振りではあるが、町に持っていけば、他のの者たちが採ってきたものより数段大きい。
 男はそれぞれに酒を振りかけ丁寧に採った。
 そのようにして、最後の場所にやってきた。そこは山奥の、またまた山奥の、男しか入ったことはないであろう秘密の場所である。
 小さな湧水のある場所にあまりにも大きいブナの木がそびえたっていた。樹齢何百年にもなるのであろう。その大木の根元には、今までのものより倍もあろう舞茸がどっしりと生えていた。抱えあげるのも大変そうである。
 男は籠をおろすと、苔蒸した岩に腰掛け、舞茸を目の前にして、握り飯を腰から取り出した。最後の舞茸をとる前に、腹ごしらえをすることにしたのである。
 竹の皮を広げると、二つの大きな握り飯がでてきた。女房の作った梅干しのはいった特製の握り飯である。
 握り飯を一齧りしたときである。目の前に子供があらわれた。びっくりした男はその子供をみると二度びっくり、子供だと思ったら、白いヒゲを蓄えた老人であった。こんな山奥に人がいるわけはない。これは山の神ではないだろうかと、男はしわの寄った老人の顔を見た。老人は近寄ってくると、おずおずと、男の持っている握り飯を指さした。
 男はもう一つの握り飯を差し出してみると、老人は旨そうに食べた。
 その後、老人は、腰の最後の酒の入った竹筒を指さした。
 これがなくなると、最後の舞茸の儀式ができなくなる。男は少しばかり迷った。
 しかし、今年はもういつもの年より立派な舞茸が七本も採れた、最後の舞茸採るのはあきらめよう、と、酒の入った竹筒を老人に渡した。
 老人は笑顔になって、竹筒の酒を一気に飲み干した。そうして、すーっと、消えてしまうと、目の前の大きな舞茸がうっすらと赤くなり、根本からすっと持ち上がって、男の脇に転がった。
 これは、神の恵みと、男はいつものお礼の言葉を述べて、舞茸を新聞紙三枚も使ってくるみ、籠に入れた。
 齧りかけの握り飯を食べ終え、水を一口飲むと、籠を背負った。
 ずっしりと重い
 きっと女房が喜ぶだろうと、山を下り始めると、背中の籠がゴソゴソと、動き始めた。
 何だろうと思って背の籠をみると、八人の赤い顔をした老人が籠の中で楽しそうに話をしている。少しばかり気味が悪く思っていると、さきほどの白い髭を生やした老人が、
 「お主、あの酒は旨かった、来年も持ってきてくれ」
 と言った。ほかの老人もうなずいている。
 男が、「はい、必ず持って参ります」と返事を返すと、背中のかごの中の老人は消えて、新聞紙にくるんだ舞茸だけになった。

 男は家に戻ると、女房にその出来事を話した。女房は、
 「それは舞茸の神様ね」、と神棚に御神酒をあげにいった。
 男は籠の中から、一つ一つ丁寧に新聞紙にくるんだ舞茸を取り出す、部屋の中に並べた。
 新聞紙とるとそれはそれは立派な舞茸があらわれた。
 「すごい舞茸、今年は豊作ね」
 戻ってきた女房が最後の一つの新聞紙をとると、強い光がさし、金の舞茸がころんと現れた」
 これは珍しいものと、女房と相談して、金の舞茸をお代官様に差し上げることにした。それを目にした、代官様はえらく感激され、男とその女房に蔵の付いた屋敷を与え、男の採ってきた舞茸は、高い値で代官様が引き取ることになった。
 老人夫婦はお金がたまり、そのお金を、村のみなに分け与え、ますます、その村は栄えていったということだ。その上、お代官さまが、金の舞茸をお城の殿様に差し上げたことから、その村の年貢が引き下げられ、人々の暮らしもらくになったということだ。
 男と女房の家は、舞茸長者の屋敷として今も町の外れにある。

舞茸長者

舞茸長者

舞茸採りのじいさんは、舞茸をとると黄、お礼を言い、お酒を振りかけるのであった。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-04-23

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