バランス

 せなかに、翅があって。黒。ぬりつぶされたのは、肺。こわれて、破滅的なうごきをする、球体人形と、天使だった子どもたちが、みる、空の、つきぬける青さが罪なのだと、やさしいバケモノがうたう。午后の、パンケーキにそっと、ナイフをいれて、そのやわらかさに感じる、甘やかな誰かの祈りと、ぼくたちの心臓を司るものの思慕。ホイップクリームの白さに、うっとりする頃の、恋のおわり。むかし、昆虫と、にんげんが交わってできたような、かまきりの顔を持つ二足歩行の生命体に、すこしだけこの星が支配されていたときに、ぼくのおかあさんは、たたかったといいます。子どもを守るために、立ち向かったのだと。虫にんげんは、群れるとつよいけれど、単体だと拍子抜けするほど脆弱なのだと、おかあさんはおしえてくれた。あのとき、あなたにはもっと、兄弟姉妹(きょうだい)がいたのよと、おかあさんはさみしそうに微笑んで、じゃがいもの皮を剥く包丁が、わずかにふるえていた。いまは、にんげんが、にんげん以外のいきものを使役して、うまく成り立っているらしいけれど、世の中、やさしいバケモノが、それはあくまで表面上のことであって、目にみえることがすべてではないのだと、じつにありふれた科白を吐いて、赤い花びらとなって肉体を散らした。崩壊のはじまりは、いつも夜である。

バランス

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-04-22

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