余分な男
フリーライターである僕が単独で〝余分な男〟に取材を申し込んだのは、何も好奇心だけではなかった。人よりも一日余分に時間を与えられている男の実相を、個人的に突き止めたかったのだ。
――では、あなたはもの心のつくころには、自分が他人よりも一日多く生きているということに気づかれていたのですね?
ああそうだ。日曜と月曜の間に、俺には一日が設けられていた。最初のころはずいぶんと戸惑ったものだ。「その日」になると、世界には誰もいないんだからな。家を出、俺は泣きながら母親の姿を探した。でも、人っ子ひとり見当たらない。だから仕方なくスーパーの試食コーナーで食事を摂り、終日本屋で立ち読みをした。
――何も、試食売り場で食べなくても……。
だって、盗むのは、犯罪だろ?
――誰も見ていないのでしょう? その日はあなた一人だけの世界ですから。
でも不正はだめだ。今でも試食コーナーでご飯をすまし、バッティングセンターではちゃんと金を払ってプレーをしている。
――なるほど……ところで、疑問が一つ。あなたは一日余分に生きていらっしゃるのだから、歳も実際とは違うのでは?
当たり前だ。一週間に一度、人よりも一日早く歳をとる。
――ですから、見た目が少々……。
老けて見えるとでも言いたいのか?
――すみません。
いいんだ。しかしな、そういう君だって、年齢よりも相当幼く見えるぞ。まるで学生だ! まあ、だからな、歳なんて関係ないんだよ、本当は。
――そうかもしれません。
いささか疲れてきた。次の質問で最後にしてくれないか。
――わかりました。それでは、えー、余分な男であるあなたにとって、「その一日」とはどういう意味合いを持つのですか?
はっ、そんなの知ったことではない! 余分に生きている、ただそれだけだ!
――なるほど。
……でもな、ときどき絶望的になるよ。時間と時間のすきまに迷い込む、途方さ、無意味さにね。君にはわからないだろうがね。
――わかりますよ。
わかるもんか。では、これで失礼するよ。
僕はもう一度、わかります、と胸の内でつぶやいた。
誰にも言っていないが、余分どころか、僕には日曜日が訪れない。腕時計を見ると、あと二時間で、午前零時をまわる――日付が変わる。そうしたら、翌日の日曜日を飛んで、気づけば、月曜の朝になっているのだ。
そこで、僕ははっとする。店を出ていく男の後ろ姿を見やる。
もしかして、僕の大切な一日は、アイツに与えられているのではないだろうか? 奪われているのではないだろうか?
そう思うなり僕は立ち上がった。椅子が大きな音を立てた。
余分な男