飛鳥さんの短編集

短編集です!

自己紹介

読みきりの短編を書いていきたいと思います。

テーマはいろいろ、思いついたものを書いていきたいと思います。

ぐだぐだにはならないようにがんばりたいと思います。

テーマなどは適当に登録してしまいましたが、コメディを目指してがんばりたいと思います。

けど青春も捨てがたい・・・・ぐぬぬ^q^

それでは遅筆だと思いますが是非楽しんでいってください。

星空 独白

 満天の星空、なんでこんなに混み合ってるのに綺麗に見えるんだろうと人間の感性は不思議だなと。
少なくとも自分はこの夜空に感動を覚えてることに安心する。
けど特別な言葉で表現する術は持っていなし、ただただ圧倒されるだけ。
本当に綺麗な物は言葉などいらないとその身を持って語っている。

「ふぅっ」

 そろそろオリオン座が見える季節か、この寒さにも再び覚えを感じる。
季節は巡る。
毎年毎年何か特別なことがある訳ではないが、毎年この季節の寂しさは何なのだろうか。
哀愁、寂寥などというがそんなにややこしい感情ではない、ただの不安。

「まあ、そんなもんだろう」

 この寂しさを押し殺すように、そして吐き出すようにそう呟いた。
そしとそっと心の奥を閉ざすようなそんな響き。
生きていくためには邪魔な感情が多すぎる。
まるでその一言は男の独白だった。

「もうこんな時間なのか」

 自分に穏やか時間なほど、忽然と過ぎていく。
感情を吐き出すほど、早く、早く、急かすように。
まるで朝の通勤ラッシュだなと自嘲気味に広角を上げ、一息。
そしてその寂しさを噛み殺し、自分は大人なんだと虚勢を張ることにする。

「またこようか」

 誰に話しかけるでもなく、そう呟くと男は重い腰を上げる。
さっきより体が軽いような、きっと吐き出した懊悩する感情分だろうと勝手に納得する。
消して前向きな気持ちではないが気分が高揚する感じ。
ああ、また歩ける、そう確信し男はその場を後にした。

星空はきっとこの感情すら飲み込んで綺麗に、煌きに変えて誰かを照らしてしまうだろう。

SS 日常

「きゃあああああああ!」

「朝からなんだ。いきなり」

「聞いてよ! 聞いてくださいよ!」

「……それで?」

「なんとですね!なんとですね! 」

「で、なんとなんと?」

「今日朝卵焼き作ろうと思ってですね、卵を割ったらですね!」

「割ったら?」

「卵の黄身がハートの形だったんですよ!」

「…………で?」

「え、ハートの形だったなーというお話だったのですが……」

「……そうか」

「なんですかそのどうでも良さそうな態度は! もっと関心持ってよ!」

「えー、だってーものすごくどうでもいいっていうかー」

「むきゃー!」

「口でむきゃーとか言うなよ。ほらよーしよーし」

「そんなムツゴロウさんみたいになでなでしても許さないからね!」

「すまないって、朝の寝起きじゃなかったらそれなりに反応してやるよ」

「ふーん、まあいいよ。兎に角今日はお買い物の予定だったじゃないですか」

「もう9時半か、そろそろ準備して出るか」

「そうですよー!早く行くよー!」



「そろそろ春物が出る季節ねー。服欲しいなー」

「俺なんかまた秋物を引っ張り出してしまう」

「もう! 春らしい色とかの服とか着たくないの? 」

「ファッションに興味がないわけじゃ無いんだがな。……そうだ、お前が選んでくれよ」

「えー、高いよ?」

「じゃぁいいや」

「嘘です! ごめんなさい! 超選びたいです!」

「仕方ないな、そこまでいうならまかせよう!」

「やたー! この私の任せちゃってよ!」

「……ま、期待してるよ」

「何、私のセンスを疑ってるの!」

「え、ばれた?」

「私に対しての信用が少なすぎる!」

「何故あると思っていたのか」

「酷い! 酷すぎる! 泣いてもいいよね!」

「勝手にどうぞ。よーしよーし」

「ごまかされないんだからあああ!」

「ほら、早く服見ようぜ。服見たいんだろ?」

「すごくそらされた……」



「このマックのポテトの端っこのかりかりはさいつよ。そして薄味ならなおよし」

「はしっこかりかりは同意だが俺は塩多め派だ」

「早死するよー!」

「その分水で流す」

「言ってる事滅茶苦茶ですよ……」

「ポテトうまー」

「あ、ちょっと私の食べないでよ!」

「弱肉強食って知ってる?」

「もう、ほんとちょっかい出すの好きなんだから」

「ほら、後ちょっとだから早く食べちまおうぜ」

「そっちがちょっかい出すから遅れてるんでしょ!」

「だってー、顔がちょっかい出して欲しそう? だったし」

「っん、どんな顔だよ! あー味わう暇なかった!」

「ごめんごめん、後でアイス奢ってやるから」

「約束だよ! 別にモノに釣られる安い女じゃないんだから!」

「はいはい、なら一番高いアイス奢ってやるよ」

「ラムレーズン三段ね! 約束だよ!」

「よろしい! なんだってかかってこい!」

「トッピングだって沢山付けるから! 容赦しないよ!」

「分かった! 男に二言はないよ。次はどこ行こうか」

「んー、雑貨屋さん行かない? ヴィレバンヴィレバン!」

「お、いいね。暇つぶしには最適だな」

「そうと決まればれっつらごー!」

「確か、フードコードから二つ目の角の先に……」

「お、本屋さんだ」

「後で暇になったらくる?」

「今日はいいよ。欲しいものないし」

「そっか。あ、着いた着いた」

「んじゃま、好きに見てくるよ」

「じゃ、適当に暇になったら教えてよ!」

「おう!」

「――しかしあいつ誕生日明日だよな」

(そういえば朝あいつハートの卵がどうのって)

「アピールだったのか?」

(いや、けどもうちょっと似合うものを見てみよう)

「ピアスか、しかしあいつが付けてるところ見たことないし」

(そういえばあいつのことよく知らないな。ずっと一緒に居るのにな)

(高校もずっと一緒だったしな……)

「もう10年か」

(長く一緒に居すぎたのもよくないのかな……)

「しかし、難儀なもんだねー」

(丁度いい機会……、だな。よし)

「しかし特に種類があるわけではないのか」

(ここは無難ネックレスにしておくか、あいつ好きだし)

(しかしこのミディアムとスモールってのは……)

「店員さんすいません――」



「なんか買ったの?」

「いや、ぶらーっと見ただけだよ」

「ふーん、店員さんと喋ってたからさ」

「ちょっと欲しいモノがなくてさ。聞いてたんだ」

「へえー、別にいいんだけどさ……」

「……どうしたんだよ」

「なんでもないし! ほら、アイス行くよアイス!」

「んん、ああ、行くか行くか!」



「うむ、苦しゅうない!」

「満足いただけましたか、お姫様」

「気分がいいぞ! ちこうよれ!」

「ありがたき幸せ!」

「なんだこりゃ」

「そりゃノリってやつですよ! へいへーい!」

「ていうかもうこんな時間かー」

「お昼ご飯遅かったしね! いやあ楽しい時間はあっというまですなあ」

「服お前に選んでもらったしな。助かるよ」

「私のセンスに惚れ惚れしたでしょ! 感謝しなさい」

「ははー、ありがたき幸せ」

「しかしだいぶ日が落ちるの長くなってきたねー」

「そうだな、もう冬も終わるなー」

「こうやってまたすぐ季節が終わってっちゃうわけですよー」

「ほんとだな、また歳をとるわけだ」

「……」

「……」

「……ねえ、私って君にとってどんな存在?」

「――急にどうしたんだよ」

「いや、なんとなく、じゃなくて!」

「じゃなくて?」

「いつもこうやって遊んでるけどさ、ただ楽しいだけの仲なのかなって……」

「あー、なるほど」

「そりゃあさ、楽しいのが悪いってわけじゃないんだよ? たださ、ただ」

「――うん」

「それ以上は、っないのかなって!」

「――いや」

「あ、えーっといきなりごめんね! いきなり言われても困るよねごめんね!」

「いや! ちょっと、落ち着けって!」

「う、うん」

「じゃぁ俺の意見をいうぞ。俺もな、ただ楽しい仲で終わる気はない!」

「――じゃぁ」

「お前に! 渡したいものがある」

「ええ、ちょっと投げないでよ!」

「落とすなよ」

「もう、いきなりなんだから……。わ、綺麗な小包……」

「開けてみてくれ」

「ネックレ……ス? あ、ハート……」

「ハートの大きさがミディアムかスモールってので迷ったんだが」
「これからまあ、大きくなるみたいな?」

「……」

「……」

「っぷ、はずかしー!」

「何だよ! 仕方ないだろ!……好きな女の子の前ではかっこつけたいんだよおおおおお」

「――ねぇ」

「っ……、何だよ……。」

「やっぱりちゃんと言葉にするのって大事だと思うんだよね。そう考えるとさっきのは曖昧だったっていうか? 伝わってこなかったっていうかー?」

「何だよ、そっちこそはっきり言えよな!」

「むふふー!」

「何だよ、不気味な笑顔しやがって」

「いやあ、なんでもー?」

「ほら! 言いたいこと早く言えよ!」

「じゃあ言うよ?」

「ちょっと待て、覚悟を決める」

「えー、なにそれ!」

「あー、あー、あああああ」

「……」

「そんな目で見るなよ……」

「ほら、言うからー!」

「よし、かかってこい!」

「もう一度、ちゃんと目みて、はっきり、言って欲しい……な?」

「お、おう」

「どうなの! 言ってくれるの?」

「言うから!ちょっと待ってくれって!」

「……むふふー!」

「なんだよ……」

「いやー、別にー?」

「……言う気が無くなってきたぞ」

「ああああ! ごめんなさい! お願いします!」

「それじゃ、言うぞ。心して聞け」

「はい――。」

「俺は、お前の事が――」

海、時々少女

「――っうお」

今年の冬、新車で買った納車して半年ばかり立つだろうこの車と今日はお出かけ。
俺の愛車のマーチである。

「しっかし、生ぬるい風だー」

左側には太平洋。沿岸だというのに、深い青に染まっている。沖の方と手前では色が違うのは、その境目からいきなり海が深くなっているからだ。
地元の海は工業排水で汚れ染まった海底のヘドロを写した汚い抹茶色のようなグレーのような。
夏はよく赤潮が出て、赤色に染まり不快な腐臭を放つ。

――これをみたらあれは海とは言えないな。

ふと、気まぐれにここに来たのは間違いでは無かった。これが心の洗濯か。
窓の開けながらのクーラーは無駄だな、と感じクーラーの風量を0にする。
それなりの速度で走っているし、それも海風が窓から飛び込んでくる。中々の風量で耳が塞がれ、カーオーディオの音が遠ざかる。

「あああああああああああ!」

大きな口を開けて思いっきり叫んでみる。なに、走っている状態だし、風の音で声などかき消されるだろう。
田舎の道で、対向車など走っていやしない。なんだかこの海を独占しているような気分。

「しっかし、綺麗な海だねー」

一人ごちるように呟くと、対向車の軽トラックが通り過ぎた。そういえばこの道を走って初めての対向車だ、と感慨に耽る。やっぱり田舎だなと。

「この先、道なりです」

しかし、初めての道だろうがなんだろうが、案内してしまうこのカーナビはいただけないなと、この空気を壊すような感じがした。
だが、こいつのおかげでここまで来れたことに感謝しつつ、前方のフロントガラスを覆い尽くす入道雲に思いを馳せる。
昔はあの雲を見ただけで夏だと感じ、ワクワクしたもんだ。だが今もその感覚は残っている、何故か心が高揚する。

「釣り道具持ってくるんだったなー」

自分の準備不足を後悔しながら、まだまだ続く沿岸沿いの県道。
そろそろどこか止まって景色でもみようかとカーナビに目をやる。

「海水浴場位あってもいいもんだがな」

一人恨み言のように呟くと、前方に波止場のような物が見えてきた。

「よし、取り敢えずあそこだ」

車で2、3分走っただろうかそこは小さな、しかしコンクリートは打ちたてで新しい。どうやら最近作られたもののようだ。

「うわー、泳ぎてえええええ!」

「ふふ、ここの海は綺麗でしょ?」

「うわあ! びっくりしたあ!」

いきなりの、自分以外の声に素っ頓狂な声を上げてしまう。そんな自分を恥ずかしがりながらも振り返ると、自分と同年代くらいの女性が立っていた。

「いや、すいません! 驚かせる積もりは無かったんです。」

「怒ってる訳じゃないよ! 大丈夫。こちらこそいきなり大きな声出して申し訳ないね」

二人でさも言い訳しながらあわあわと手を振る姿はさも滑稽だろうな。と思うと自然と笑がこぼれる。

「はは、いやいやまさかこんな田舎な場所でね、人に声をかけられるだなんて思わなくてさ!」

「確かに、すごい田舎ですよね――」

海の青のグラデーションと雲の白とのコントラスト。遠い水平線で重なって幻想的な景色に見せる。

「その言いぶりだとこのあたりに住んでるのかな?」

「はい! ほんとここから歩いて10分もかからないですよー」

「はー、ほんと近所だね。しかしいいなあ、この景色を何時でも見れてさ」

「だけど毎日見てたら飽きちゃいますよ」

そういえば今になって初めて彼女をしっかり見た。

見た目は同年代。髪は黒のストレートで肩まである。目はパッチリと大きく鼻がすっと通っており、所謂美人。
また服装は夏らしくレースの着いたタンクトップにしたはデニム生地のショートパンツである。
アクティブな印象な服は、また彼女の魅力を一層引き立てていた。

「やっぱり毎日見てたらそんなもんかな」

「だけど、嫌いになる訳じゃないです。海って毎日表情が変わりますから! ああ、やっぱりそう考えたら飽きないかも!」

そうやっていいながら笑う彼女はまるで太陽だなと、感じる自分にくささを感じながらも、やっぱりそれは大げさじゃ無いなと感じた。

「そういえばなんでこんな所にいらしたんですか?」

「あー、なんていうんだろう。ある意味傷心旅行?」

「あら、彼女さんと別れたんですか」

「そういう訳じゃないんだ……。うつ病になってしまってね! そのせいで会社やめちゃってさ! そう言う意味の傷心かな」
なぜだかこの少女には自分の事情を話してもいいかなと思ってしまった。あって1時間もたっていないが、この少女には心を開かせる雰囲気がある。

「上司にいじめられてさ。ものすごいいじめだったんだ。人には分からない所で嫌味を言われてさ。ある日突然職場のみんなの態度が変わったんだ。多分その上司があることないこと言ったんだろうね、もう俺はそこには居られなくなっちゃったよ」

逃げたみたでカッコ悪いだろと呟くと自重するような笑みが顔に浮かぶ。
そんな自分がカッコ悪いなと思っていると。

「――そんなことないです! 逃げだって立派な手段です!」

「ふふ、ありがとう」

そんな簡単な慰めでも今は心に心地がよく響く。

「何だかな、君と話しているとなんでも喋ってしまいそうだ」

「話しちゃってくださいよ! これも何かの縁ですよ!」

――もう1時間も愚痴を言っただろうか、その間彼女はずっと相槌を打ち続けてくれた。

「なんだかかっこわるいところ見せちゃったなー!」

「いやいや、かっこわるいだなんて……。中には面白い話もありましたし!」

「気休めでも嬉しいよ」

「気休めだなんて、そんな!」

「しかし、君は不思議な人だ、初めて会ったのに初めてじゃないみたいだ」

「それだったら私も同じですよ。私もあなたが初対面じゃ無いみたい」

なんだろう安っぽいが、言葉にするとなくなってしまいそうだが、これが運命なのだろうか。

「初対面じゃない次いでにこれからご飯とかどうだい? なに、話のお礼にさ」

ナンパしたい経験はないが不思議と言葉がスッキリでた。

「ナンパですか? ふふ、仕方ないですね! 初対面じゃない次いでにそのお礼とやらを受け取りましょう」

なんだか浮ついたこの感じ、いつぶりだろう。
今はそんな気分に浸ってもいいのかもしれない。
自分の感情を受け止めてもらったから、初対面な感じがしないから。
きっと理屈なんてない事、そんなことがあってもいいじゃないか。
所詮人間の感情なんてそんなもの。


それは全部夏のせいにして


今は海風に身を任せ



夏も 人生も、まだ始まったばかりだ――

幸せは何時も、記憶の中に。

 「うっし、今日は豚キムチ!」

 豚肉がきつね色に焼けた香ばしい匂いと、キムチの中の香辛料、特ににんにくの匂いが食欲をそそる。
中々に会心の出来だなと内心ほくそ笑む。自慢する相手がいるわけでない一人暮らしだが所謂ドヤ顔だ。

 「うむ! 辛さも塩加減も抜群でしょ!」

 少し辛目に作り、ご飯に乗せ丼にする。これを口いっぱいにかきこむ時が至福のひと時だ。
その最初の一口を想像し今からよだれが止まらない。一人暮らしの楽しみなどこれくらいなものだ。

 「それでは、頂ます!」

 誰が見ているでもないが、食材に感謝してから頂く。美味しく豚キムチ丼になってくれた食材への感謝だ。

 「うまい! やっぱ俺天才でしょ!」

 料理の腕を自画自賛しながらも食を進める。ご飯と豚の脂とキムチが混ざり合い一つのハーモニーを醸し出す。
かきこみながらそんながらでもないことを考える。

 「ふう、ご馳走様でした!」

 しかし最初はこんなに自分が料理を作るようになるなんて思いもしなかったと昔にに思いを耽る。
 ――あれは確か、小学5年生だったか。
母親ががんで入院し始めて確か3年目。母親に元気になって貰おうと思って作った目玉焼き。
最初はうまくできなかったが、母親はそれを見て嬉しそうに笑ってたっけ。
今はもうおぼろげにしか浮かばないその笑顔に寂しさを覚える。
しかし、母はあれから手料理をあまり食べる間もなく亡くなってしまった。
 もうあれから10年も経ってしまった。寂しいと思うような時期もとうに過ぎてしまった。
自分は強くなれただろうか、成長できたのだろうか。あの時の自分と変れただろうか。
肉体面は勿論成長しているが、精神的に、心は育っているんだろうか。
ずっと子供のままではいられない、しかしあの時の気持ちも忘れたくない。
流石にあの時は小学生だし、今とは比べられないかと、鼻で息を付いた。
 あの時始めた料理は今もこうして続いている。母親との記憶が、形として残っているのだ。
最初は料理の最中に撥ねる油にものすごく驚いていたな。今でも好きな訳ではないがすっかり慣れた。
玉子焼きの卵は混ぜすぎちゃいけないんだろ。覚えてるよ、ちゃんとやってる。
妹と競ってどっちがうまく巻けるか競ったっけか。結局、妹のほうが器用で勝てなかったが。
ただただ、無邪気に嬉しかった。そんな気持ちを思い出すと、胸が暖かくなる。

 今の俺は誰かを幸せにできてるだろうか。それは誰にも分らない。
ただ、今自分のしてる仕事が、誰かを幸せにしてたらいいな、なんて願ったり。
 兎に角、自分の体は自分の料理により、幸せになった。今はそれでいいかな。
 何故いきなり母親のことが思い浮かんだかは分からない。きっと自分の気まぐれだろうしタイミングもある。
だけどこうやって生きていた時のことを思い返すと、寂しいが幸せな思い出がいっぱいだ。
 そうやって人は人に何かを残して行くのだろう。
自分もそういう存在になれるかな、と少し感慨に耽る秋の夜更けだった。

幸福の国

これは、ある小さな小さな国の成り立ちのお話し。
 
 最初はある6人の男女が集まって、小さな小さな集落が出来ました。
この6人の共通点は不幸な事。生い立ちが不幸、親を、兄弟を殺され不幸に。親に売られその先で虐待に会い不幸だったり。
みんなそれぞれの不幸を抱えていました。
 そして、たまたま出会ったこの6人は幸せになるために、集まって暮らし始めました。
しばらくして周りの村などにこの6人の幸福な集落は少しずつ噂になり始めました。

 彼らはいつも笑っている、その笑顔が、会う人も幸せにする。彼ら6人のその幸せそうな表情は、いろいろな人を引き付ける魅力を持っていました。
 そして、彼らの理念に賛同した者たちが周りに集まり、それは気が付いたら一つの村になるほどでした。
その村の暮らしは人々が常に笑いあい、助け合い、誰もが幸福に暮らせるみなが羨むような村でした。
 そしてある日、村の一部から金の鉱脈が見つかり、その金を掘るために人が集まり街になり、沢山人が集まったことによりいろいろな産業が生まれ、
やがては一つの国が出来ました。

これが幸福の国の成り立ちです。

 そして、この国では枯れることなく金が掘り続けられたので、外国との貿易により、この国はとてもとても裕福でした。
その貿易で得た資産は、国民に還元され、国民たちはとても余裕がある暮らしができ、その余裕のおかげで他人に優しくでき、幸福になるというとてもいい循環が
出来上がっていました。

 しかし、いつからでしょうか、人々は普通の幸福には慣れてしまい、あまり幸福を感じなくなってしまいました。
最初は、とてもとても小さないざこざでした。この国で、幸福であるはずのこの国で初めての争いが起こってしまったのです。
それはきっかけでした。瞬く間に争いの火は広がり。あっという間に国中に広がりました。

 それは幸福を争う争い、幸福は分け合う物のはずだったのに、与え与えられるもののはずだったのに、いつかは奪い合う対象になってしまったのです。

 人々はその幸福を奪い合うために、2つの陣営に別れました。小さな国が争いのために、2つに分裂してしまったのです。
 その争いは、とてもとても悲惨なものでした。幸福になるために殺し、殺され、奪い、奪われ。
人々の感覚はどんどん麻痺していき、最初は自分達の正義が当たり前だと思っていたのに、当たり前を求めていただけなのに、もう最初の争っていた理由すらわか
らなくなっていました。
 しかしその間も争いは止まず、人々はどんどん疲弊していき最初は恋人が、大切な家族が亡くなってしまい悲しかったのに、その悲しみもわからなくなってしまいました。

 そして、悲しみも、幸福も、自分たちの正義も分からなくなったとき、ある6人が現れました。
その6人はこの戦争で親や家族、恋人を失い、不幸になった6人でした。

 そしてその6人は両軍が争う街の広場で、語り始めたのです。

――もう戦争は止めましょう。

元々は幸福な国のはずだったのに、

誰もが笑い合い幸福について語り合い、

互いの幸福を願う、幸せな国のはずだった。

だか、今はどうしてこうなってしまったのか、

他人の幸福を妬み、羨み

蔑み、奪い合い

もう生み出せるのは不幸だけだ。

――終わりにしましょう。今ならまだやり直せる。

 誰一人動くことなくその演説に耳を傾けました。その広場は興奮と、高揚感と、悲しみとが入り交ざった異様な雰囲気でした。
しかしその演説は、誰もが望んでいた、待ち望んでいた言葉達でした。
 今すぐ、今まで殺し合ってきた相手を許すことはできない。しかし自分の幸せのために、誰かの幸せのために
戦争は止めることができる。彼ら6人の心の叫びが、そう聞こえるようでした。

 その日、この国の悲しみを流すように大雨が降りました。
ざーっと心を洗い流すような雨粒の響き。それは傷ついた心を落ち着けるような、まるで子守唄のようでした。

 こうして戦争は終わりました。
何も残らなかった、しかしもう失くさないで済む。それだけで人々の心は少しずつ落ち着いていきました。

 そして人々は普段の暮らしに戻っていきました。どんどん普段の暮らしを、生活を思い出すたびにみながこう思う様になりました。

当たり前に人と語り合うのはいつぶりだろう――

当たり前に当たり前の人が横にいる、こんな感覚いつ振りだろう――

――幸福を感じたのはいつ振りだろう。

 人を幸福にできるのは人が生すものだけなのです。しかし人を不幸にできるのも人だけ。
そんな二律背反を抱えていても人にすがってしまうのもまた人――。

 きっと人は学習しても忘れてしまうのでしょう。しかし、忘れたのならまた思い出せばいい。
その争いが悲しかったことを思い出し、辛かったことを思い出し、不幸になったことを思い出す。
教訓は、人の心に深く根付き、そしてそれは広がっていく。また繰り返してはならないと。

 そして幸福を思い出した人々は、挫けることない優しさを持ち、また幸福への一歩を踏み出しました。

 これは幸福を思い出した国の、小さな小さな国のお話しでした。

乗船実習

一面を覆い尽くす壮大な紺色、それはグラデーションを帯び一面の水平線を覆い尽くす。
強烈な太平洋の日差しが、自分を水面に影とし映す。そして、船の航跡が自分の水面に映る、影の輪郭をあやふやにする。
 船尾を振り返ると、プロペラの撹拌によって生まれた白い泡は、まるで海の上の轍のようだ。

「もう船に乗って一週間だっけか」

「だなー、ずっと船だと感覚無くなってくるなー」

 二人は、ある商船大学の3年生、高校からの腐れ縁である。
そして今は乗船実習船中。実習は初めてではないが、どうも船の生活が慣れない二人である。

「次の日本帰るのいつだっけ」

「二週間後だよ」

「まじかよー、だりーな」

「だよなー、カップ麺持つかなー」

 全部で三週間ある内の一週間で、既に自分の荷物事情の心配である。
この船は一度出航してしまったら、航海コース的に実習の終わりまで陸に上がれない。
なので、先に買い込んでおく必要があるのだ。

「前みたいにカップ麺ねだったら一万な」

「冷たいこと言うなよー。愛してるからさー」

「気持ちわりいな。お前のカップ麺全部没収な」

「ひどいわ! 血も涙もないのね!」

 二人で茶番を繰り広げながらも、今さっき終わった当直の解放感に浸る。
正直この、当直が終わって船の甲板に出て海の匂いを嗅ぐ瞬間が、この船内生活で感じる、唯一の楽しみである。
他に楽しみがあるとすれば、夜中の当直が終わり、夜食のカップラーメンをすする瞬間。これくらいである。

「この実習終わったら夏休みだよな」

「そうだなー。……お前は夏休みの用事とか決まってるの?」

「……決まってるって言ったら?」

「友達やめる」


「……俺とお前の友情ってちょいちょい崩壊しそうだよな」

「馬鹿言えよ。これだけ腐れ縁続いてんだ、そうそう切れるかよ」

 親友のその一言にむずがゆさを感じ、どうしてか頬は動いてしまう。表情を隠しきれない。
そういう親友の顔は何処見ているのか、何を考えているのか、無表情のままだ。
こいつがこの表情の時は恥ずかしい時だ。腐れ縁の長い付き合いだからこそ分かる、親友だからこそ分かると自負している。
きっと、乗船実習でおかしくなっているのだ。普段では絶対聞けない台詞なので、ありがたやありがたやと心の中で今の状況に少しだけ感謝。

「……それで、夏休みの予定決まってんの」

「いや、全然。まったく決まってないね。決まってなくて悪いか!」

「なんで怒ってんだよ。俺も無いから安心しろ」

「お前の予定なんてどうでもいいし! あー、海のバカやろー!」

「……親戚が海の家でバイトがほしいって言ってんだけど、一緒に行かねって誘い何だがどうよ」
「行く! 絶対いく! 夏と言えば海! しかしどうだ。今は俺たちは海に居ると言うのに、

船の中で自由はなく、それも周りは男だらけ。ホモじゃねえから嬉しくないっての!」

「言い過ぎだっての。誰でも好きでこんな男だらけの空間に居る訳ないだろうが」

「そうだけどさー、分かってるけどさー、やっぱ閉鎖空間は苦手だよー」

「だけど不思議だよなー、外はだだっ広い海なのにさ、言葉だけは自由度が高いのに、実際は船の中で缶詰だ」

「まああれじゃん? 船は何処でも行けるから自由ってやつじゃない。一時の缶詰さえ我慢すれば後は楽園だ」

「そうだな。降りた時の解放感とかすごいもんな。……まあ、この景色みてるとそんなに悪くないかなって思えるけど」

「普段では見れない景色だからなー、その点は得してるのかな」

 どうしてこの学校を選んだか、どうして船を選んだかは覚えていない。ただ、昔から海が好きだった、理由としてはそれだけ。
 地元はリアス式海岸で有名な港町。
毎日毎日海を見ていた、理由なんてない。ただ、目に入ってくるのだ。
しかし、海を見ていると何時も不思議な感覚に陥る。まるで海に自分の心を見透かされるような、そして、吸い込まれて一緒になってしまうような感覚。
けっして自殺願望などではない。むしろ、その吸い込まれそうな感覚は安心感さえ抱かせる。
母なる海と言うくらいだ。きっと自分、一人間くらい簡単に包み込んでしまうのだろう。
 今、船の上から見ているこの海もそうだ。この深い紺は、まるで自分を誘い込んでいるかのように、手を伸ばしたくなってしまう。
俺は海に何を求めているのだろう。この消化しきれない不可解な感情。直感でしか感じてないから、感情にしきれないと割り切る。

「じゃあま、夏は海の家でのバイトに明け暮れますか」

「そうだな! 若い姉ちゃんの尻でも追っかけますかね!」

「お前おっさんかよ……。いや違った、おっさんだったな」

「なにおう! 失礼な! まだぴちぴちの21ですよ!」

「あーはいはい、そういうことは中身直してから言いましょうねー」

「腹立つわー、お前のカップ麺全部食べちゃうくらい腹立つわー」

「まあやったらね、分かってると思うけどね?」

「冗談だよ? 大丈夫? 目が怖いよ」

「分かってるならいいけどね」

「やっぱり俺たちの友情は常に崩壊の危機だよ!」

 しかしこの親友は海のことをどう感じているのだろう。高校は別に船関係の高校だった訳ではない。
しかしこの大学のことを話すと、面白そうだと俺に着いてきた。確かに高校時代から仲が良かったが、彼なりにも何か海に感じることがきっとあるのだろう。
 もしかしたら、ただ船が好きという可能性もある。元々こいつは自動車とかが好きだったし。
けど、この景色を見て何も思わないことはないだろうと思う。海には何か思わせる力があると思っている。
 この澄んだ水面に自分を投影し、己と見つめ合う。そして見えてくるものは必ずあるはず。
自分はずっと、この水面と向き合って探していくのだろう。己を、己の本質を。

「取り敢えず、後2週間かー」

「そうだな、正確には15日だが」

「いいんだよ! 1日ぐらい誤差でしょう!」

「まあそういうなよ、終わったら一応楽園だと思っておこうぜ」

「そうだな、いっちょこの実習を乗り切ってやりますか!」

 この海が大らかに自分たちを覆うように、自分も大らかでいよう。
せめて、何かに迷ったときにこの海のように、すべてを受け入れるように。

 海に反射して照り付ける太陽の光は、まるでこれからの道を照らすかのようだった。

Destrudo

殺せ、殺せ、己を殺せ

喰らえ、食らえ 己を喰らえ

まき散らせない衝動なら心で食いちぎれ

善意? そんなもの邪魔だ 持っていたって意味がない

そんなもの捨てちまえ

世界が優しさに満ち溢れてる そんなもの幻想

ほんとは醜くて 生臭い艶羨や殺意に満ち溢れてんだ

思ってないこと口にだすんじゃねえぞ?

助け合い そんな生ぬるいこといってんじゃねよ

そんなこと言えないぐらいバラバラに食いちぎってやるから待ってろ

信じることは何時も自分の黒い感情 突き動かす衝動の根源は嫉妬

前向きな言葉に力などない 所詮はまやかしで誤魔化し

誤魔化しで偽る自分なら いっそ自分の死骸をさらけ出そう

素直になろうぜ その殺害衝動に身を任せ

もっと気持ちよくなろうぜ?

その快楽に身を任せ 己を殺せ

俺たちの戦いはこれからだ!

「よし、俺、リア充目指すよ」

「はいがんばってー」

「もっと聞くこと無いの? 関心持ってよねえ」

「うるせえな、いつも三日坊主の癖に、いつも以上にわけわかんない事言ってるから関わりたくない」

「はあ! 今回は心意気が違うね! ほら、ありがたい演説してやるから聞け!」

「あー、すごかった。まじ参考になるわー」

「ホント偉そうな事言ってすいませんでした聞いてくださいごめんなさい」

「よろしい! 話すがいい」

「くっ、どうしていつも俺が下の立場に……」

「ん? どうしたのかね? 早く話したまえ」

「腹立つ、いや話すんで席立たないで下さい。 まず自分とリア充と何が違うか考えたんです」

「顔だな」

「元も子もない事言わないでください! 死にたくなります!」

「それで、顔以外に重要は要素はあるのかね? ん?」

「後で覚えておけよ……。まあそれで奴らとの決定的な違いはやはり彼女が居ることだと思ったんです!」

「それは違うな。顔がいいからリア充なのだ。顔がいいから彼女が出来るのだ」

「貴様! 彼女が居るからと調子に乗りおって! であえー、であえー!」

「ふ、このクラスに貴様の味方などおらぬよ!」

「ちくしょおおおお! 貴様ら彼女持ちというアドバンテージにすくみおったな! 仕方ない、ここは俺一人でやる!」

「よろしい、暇つぶしにはなりそうだ」

「その油断が命取りになるのだ! はは、その弁当ががら空きだ! あ、からあげいただきまーす」

「貴様ああああ! 今日の弁当のメインディッシュを取りおったな!」

「ふひゃひゃ、からあげ超オイシーデース」

「ふ、貴様は既に積んでいるのだ……。咀嚼しているということ自体が隙なのだ! そのいちごオーレを飲み干す! ずごごごご」

「おのれええええ! 返せ! ちょ、返せ! 逃げるなあああああ!」

「半分以上入っておったな、ざまあ(笑)」

「貴様……。俺のなけなしの130円で買ったと言うのに……。毎日一本だけの楽しみだと言うのに……」

「しかしいちごオーレは絶望的に普通の食事とは合わないな」

「俺はパン食だからいいんだよ! くそう、購買でジュース買ってくる」

「仕方ねえな、一本奢ってやるよ」

「まじで! 五本くらい買え」

「話聞いてた? 一本だけだ」

「えー、顔がけち臭いからって心もけち臭くなっちゃダメだぞ!」

「奢る気失せたわー」

「ホントすいませんでした!」

「そうだぞ、その様にお前は俺に服従していればよい」

「ははー! 私はあなた様の奴隷です! わんわん!」

「気色悪いなあ……」

「やめて! 冗談だから! そんな冷たい目で見ないで!」

「こうしてこの男は誰にも相手されなくなりボッチのまま一生を終えるのでした」

「そんな最悪の結末嫌だ! 構ってもらえるまでちょっかい出し続ける!」

「お、意外と空いてんな。とっとと買っちまうぞ」

「無視ですか! ムシムシQですか!」

「そんなんだから彼女できないんだよほれ、好きなの選べ」

「そのうちこれでも良いって言ってくれる子が現るのを待ちます! お、まだパン余ってるから次はバナナオーレ」

「なにそれ、一生独身宣言? クソワロタなんですけど」

「世界は広いのだよワトソン君、常人では有り得ない出会いが俺には待っているのだよ!」

「はいはい、スイーツ全開な妄想ありがとうございます。教室戻るぞ」

「へーい、教室に戻ってごはんの続きしますか」

「ていうか早く食べないと次実習だけどいいのか?」

「え、後10分しかないじゃん着替えなきゃ! 早く言えよおおおおお! 先帰る!」

「……ホント騒がしいやつ」

一番星に願いを 前編

「いちばんぼしみーっつけた!」

「えーどこー! おしえてよー!」

「ほらー! このゆびのさきだよ!」

「あれー、ほんとにひかってるー?」

「ひかってるよー! ねー、しってる」

「んー、なにがー?」

「いちばんぼしにはね! いいつたえがあるんだよ!」

「そんなのきいたことないよ?」

「けどおばあちゃんがはなしてくれたもん!」

「どんなはなししてくれたのー?」

「いちばんぼしはね! だーいすきなひととみたらそのひととしあわせになれるんだって!」

「へー、すごい! どんなふうにしあわせになれるんだろうね!」

「きっとすきなおかしとかいっぱいたべれるよ!」

「すげぇー! じゃあおもちゃとかもたくさんもらえるかな?」

「きっとなんでもかなっちゃうよ! ね、だからいっしょにおねがいしよ!」

「うん、する! しあわせいいなー!」

「ねえ! しあわせになろうね!」



 「――ホント、私たちって腐れ縁よね」

高い高い秋の空、遠く見える薄い水色の中に、ちぎれた綿菓子みたいな雲がぽつぽつと浮いている。

 「まあ、家が隣だったしな。家もド田舎だし、近所なんておまえんちだけだよ」
 
 小さい頃は田舎の山の中腹にある学校に通っていた。クラスは10人。全校で100人も満たない。そんな小さな小さな学校だった。
知らない顔なんて居ない。何か事件があった日には、一瞬で噂は伝染してしまうし。噂の本人の顔もはっきりと浮かべることができる。
それだけ人間関係が濃いというか、人間関係にがんじがらめだったというか。

「けどさー、大学来てまで一緒だとは思わないじゃん?」

「趣味はストーカーです! きりっ」

「……マジで言ってるならすごいきもいんですけど。いや、マジじゃなくてもそのドヤ顔、腹立つから止めて」

「大体あの高校から進学できるところなんて限られてんだろ。田舎の高校なんだしさー。それに遠くいくなら知り合いがいたほうが安心できるじゃん」

「まあ田舎もんだからね、群れじゃないと生きていけないのはあるよね」

「群れって言っても二人だけどな。なんと希薄な人間関係!」

「そうやってこの都会の空気に飲まれていくのさ!」

「およよよ! ひとごみーにながっされてー」

「曲のチョイス……」

「ゆーみん最強でしょ! あんまり聞かないけど!」

「失礼な気もするが、そんなもんだよなー」

「そんなもんでしょー」

 いつも通り大学の中庭での昼休憩の一コマ。今年の夏は暑く、10月の中盤になってやっと秋めいた天気になってきた。
秋特有の乾燥した風が、いつものランチタイムを少し優雅にひきたててくれる。

「しっかしまあ、やっとこさ涼しくなってくれましたけども」

「あーこれから寒くなんのかー。朝起きにくいからやだなー」

「いいじゃない、いつも私が部屋行って起こしてるんだから。ホント感謝の気持ちの一つでも欲しいものですわ!」

「……仕方ないなー。 帰りに松屋でシュークリーム奢ってやるよ」

「やった! あそこのシュークリームサクサクで超おいしいよね! それも一口サイズだから食べやすいし!」

「そして、今日はスペシャルウルトラサービスで! 40個入りの贈呈です!」

「おー! 太っ腹―! 大将、今日はどうしてそんなに気前がいいんだい?」

「なんと今日は! バイトの給料日なんです!」

「おお、納得しましたよ! たまに男前なんだからあ!」

「何言ってるんだね? 私はいつでも男前だが」

「うわー、調子乗ったから2万点減点ですー! はい死んだー!」

「なんという理不尽な採点。横暴だ―、職権乱用だー!」

「じゃあ朝起こすのやめまーす!」

「今日は給料日だからなんだって言うこと聞いちゃうぞ?」

「そうそう、素直なのって大事だよね? じゃあ、松屋のいちご大福も追加で!」

「あそこ和菓子もうまいよなー。作ってるの厳ついオッチャンなのになー。」

「そして奥さんも美人だしねー! 何だろう、ギャップ萌えとかなのかな?」

「見た目やーさんなのに、繊細な和菓子を作る姿に……。俺男だけど割とかっこいいと思う」

「確かに、職人気質ってのがいいよねー。やっぱそういう信念っていうの?そういうのがある人は色々な人を惹きつけるものなんだよ」

「確かにな……、オッチャン恋愛講座とか開いてくんねえかな」

「あんたみたいなのが聞いたって一緒よ、あれはあの人だから出せる人間味なのよ」

「まあ真似したところで出来っこないか」

「そうそう、楽しみは帰りに取っておきまして、そろそろ講義に行きますか!」

「あー、もう昼休み終わりかー。まあ後2限で終わりだし頑張っちゃいますかー」

そういうと二人はベンチを立ち、その場を後にした。



 二人が大学の正門を出たのは少し日が傾きかけた頃、秋の高い空に浮かぶうろこ雲が一つ一つ夕日に照らされ細かく空に影を刻んでいる。

「さあ、いよいよお楽しみの時間がやってまいりました!」

「俺の財布は寂しくなるけどね! けど俺も楽しみだからいいのさ!」

 もうこの大学に来て、2回目の秋だが、この妙に寂しい感じは何なのだろうか。少し肌寒い風が頬をなで、秋の夕暮れがビル群を照らし歩道に影を落とす。
走る車の影が高速で足元を通り過ぎた。道端に落ちている銀杏の枯れた葉を巻き上げて足元に散らす。
――田舎では銀杏の木なんて沢山あったのにな。ここではこの通りだけだ、やはり自分の感覚は、まだ田舎者なのかも知れない。

「さっきからぼーっと歩いてるけど大丈夫? 弾かれるよ?」

「ああ、おおうすまんな。これからの出費について考えてて。何せ君は食い意地が張ってるんでね!」

「なにおう! 花の乙女になんと言う言い草! こうなったら60個ねだるよ!」

「気付いたら翌朝体重が+20キロに……」

「どんだけ吸収率いいんだよ私は! 食べてない以上に太ってるじゃん!」

「けどねー、あそこには栄養が行かないから不思議ですよね!」

「あー、お前明日から遅刻の毎日ですわー」

「おっきくなるように沢山シュークリーム買っちゃうぞ!」

「なんでいつも墓穴掘るかなー。後、私も一応女の子なんだからね!」

「すまんすまん。一応意識しているつもりだぞ?」

「ホントですかねー、――くせに」

「ん、何か言った?」

「なんにもー? それより早く松屋行こうよ! 店閉まっちゃうよ!」

「んーああ、早く言って買っちまおうか」

 あの一瞬、どこか彼女の表情はいつもと違い寂しそうだった。理由は分かる。しかし踏み出す勇気はない。今が温くて楽しすぎる。
この関係が永遠に続けばいいと思う反面、打開したい強い思いもある。
 東のほうから少しずつ夜が訪れる。そろそろ一番星が見える時間。
――彼女は時の話を今でも覚えてるのだろうか。小さな頃の記憶だが、だんだんと大きくなる感情。
これの正体は分かっている、だた認識してしまったら前に進まないと気が済まない。
果たして彼女はそれを望んでいるのか。俺は間違っていないか。
 まったく余計な処でチキン野郎な自分が恨めしい。状況を打開するその一歩。誰か力を貸してくれ。

「さあ、買ったことだし。後はお家で楽しみましょう!」

「うち今緑茶とかしかないんだけど」

「なんと、実家から届いた高そうなお紅茶があるのです! 感謝したまへ!」

「ははー、まじおばさんに感謝でございます!」

「私のことも褒めなさいよ! というかついでにご飯も買ってちゃいましょ!」

「仕方ないなあ、弁当代もだそう! 今日はイケメンな俺ですよ!」

「おお、明日は大雨じゃー! 私カドクラのから揚げ弁当がいいです!」

「じゃあそれ2つでいいな、 ちゃちゃっと買って帰って、デザート楽しみましょ!」

「おー! そうと決まれば早歩きですよ!」

 いつからだろうか、こうやってコロコロと変る彼女の表情を追いかける様になったのは。彼女の一つ一つのしぐさを目で追いかけてしまうようになったのは。
あー、俺はベタ惚れなんだな痛感する。どうしようもないくらい恋の病に落ちてしまっているのだ。

「なあ! 今月結構バイト代入ったからさ余裕あるんだ」

「おお、また何か奢ってくれるのですかー?」

「それもいいんだが……、あのさ」

「うーん? 何かいいアイデアでもあるのかね」

「うーん、いいアイデアというか……お前次第なんだが」

「ハッキリしないね、早く言ってみたまえ!」

「あー、デートしよう。普段みたいに遊ぶ感じじゃなくて、男女の関係のやつ」

 そう言った彼女の表情はキョトンとしていた、所謂ハトが豆鉄砲を喰らったような、間抜けな顔。
後悔はない、日本男児たるもの当たって砕けてナンボ。惚れた弱みだ、仕方ない。

「私に……言ってるんだよね? 私でいいの?」

「お前に言ってるんだ、お前がいい」

 若干勢いで行ってしまい告白みたいになってしまったが勝負はここから。
やっぱり、こういってる間にも彼女の表情は目まぐるしく変わる。今までに見たことのない表情の変化に少し不安に感じてしまう。

「分かった、楽しみにしてる!」

「おう、ありがとう!」

 彼女の表情は明るい、しかし何か裏の有りそうな顔……。丸で何かを我慢しているかのような。
取り敢えず今からは弁当を買って帰り、デザートを楽しもう。もしかしたらこの関係には戻れないのかもしれないのだから。
しくじれない、やっぱり彼女のことが好きだから。

今からが本番。自分自身との戦いは、始まったばかりだ。

一番星に願いを 後編


 今は日曜日の午前10時前――。空気は少し肌寒く、秋らしくいつものように空は高い。
彼女とは同じアパートに住んでいるのだが、いつものように部屋に行くんじゃあデートに誘った意味がない。
 所謂、待ち合わせ中である。少し暇なので軽く頭の中で今日の予定を整理する。

 「あー、昼ご飯はこっちで決めていい?」

 と、デートの前日に向こうから提案があったのでランチは彼女任せである。こっちはそれも決めていたのだが
彼女にも何かデートにあこがれがあるのだろう。何にせよ楽しんでもらいたいのだ、あっちからの要望は嬉しくもある。

 「ふう、そろそろだな」

 時計の針はそろそろ10時を指しそうだ。これまた彼女の要望で駅前の広場に集合となっている。
胸の高鳴りを抑えつつ、広場の時計と自分の腕時計を忙しなく見ていると、目的の人物はやってきた。

「おまたせ……」

「お、おう」

 その両手には少し重そうな荷物。何を持ってきたんだろうと思ったが違うところに目が行ってしまう。
普段、ジーパンとか、ズボンの類しか穿かない彼女だが、今日は違って白やピンクの花柄のスカート。
上は朱色のカーディガンを羽織っている。何だかいかにも秋らしい。

「スカート穿いてみたんだけど……、どうかな?」

「お、おう。その……似合ってる、よ」

 普段とは違うそのいじらしい彼女にドギマギしてしまう。少し紅潮した彼女の頬が、胸の鼓動を加速させる。
言い訳できないくらいに好きなんだなと、確信したところで、このままの空気では自分が持たないと思い、取り敢えず次の行動を提案する。

「あー、取り敢えず、お前が前行きたいって行ってた駅前の商店街の雑貨屋さん行くついでにぶらぶらしようと思うんだが……」

「ああ、うん。行こう! 新しく出来てずっと気になってたんだよね!」

「取り敢えず行っちまうか! 俺も実は気になってたし」

「おお、乗り気ですな大将! かわいい雑貨とかあればいいなあ」

 そう言った彼女の横顔がとても少女の顔をしていた。そういえば最近ずっと顔を、表情を特に見てしまっている気がする。
正直好意なんてバレバレだと思うが。まあ、今日けじめをつけるつもりできたのだ。いい加減腹を括らねば。

「しかし普段ジーパンとかカーゴパンツしか穿かないから驚いたよ」

「……似合ってない……かな」

「いやいやいや、違うって! そのすごく似合ってるし! 後それに……」

「そ、それに?」

「――デートだって分かってて合わせて穿いてきてくれたんだから、嬉しい……。嬉しいに決まってんだろ!」

「そ、そんな大声で言わなくても聞こえるって恥ずかしい!」

「あ、ああ、ついな。すまんすまん」

 熱くなってしまったことに恥ずかしさを感じながら反省し、しかし自分の本心を告げられたことに少し満足感を味わう。
しかし自己満足では行けないと気を引き締める。

「けど――嬉しいよ。ありがとう!」

 ああ、駄目だ。そんな言葉だけで飛び上がりたくなってしまう。自分の嬉しさのパラメーターがあるとすれば最高点をもう突き破って
大気圏なんて余裕で突破である。
 まだデートは始まったばかりなのにとても浮ついてしまっている自分が居るのは良くわかる。
何度かアーケードを歩く人にぶつかりそうになりながら、そのことを彼女に咎められたにも関わらず、足取りは定まらない。 
嬉しさで頭が沸騰しそうで、その後の会話はあやふやで覚えていないが、どうやら雑貨屋に着いたようだ。

「いい雰囲気だねー。こういう木の温もりを感じる建物いいなー」

「匂いが落ち着くよなー。」

 そんな他愛のない会話をしながら店の扉を開ける。ぱっとみそんなに大きないお店ではないが、品物の数は豊富だ。
最初は二人で見て回っていたのだが、どうやら彼女が気になる品物を見つけたらしく、店員に話を聞きに行ってしまった。
自分も少し自由に見たかったので丁度いいと思い少し店内をフラフラすることにする。
フラフラと流し見をしていると、その中で一つ気になる小物を見つける。

「星、か……」

 あの話をのせいなのかよくわからないが、星のアクセサリーなどを見るとどうも目についてしまう。
――あいつはイヤリングとかつけないしな。これでいいか。
 なんだか星自体があいつとの絆を表すようで、あいつもそう思っていてくれたらいいなと思う。
 取り敢えずこれをプレゼントとして買っておこう。今なら気づかれなさそうなので素早く会計を済ませる。
買い終えた後、いつ渡そうかと考えていると、後ろからいつもの聞きなれた少し鼻にかかるような声。

「ねえ、何見てたのー?」

「ああ、少しかわいいキーホルダーがあるからね、見てた」

 買ってしまったものを今ばらすわけには行かないので少し速足で店を出る。
これ以上追及されないように話題をそらすことにした。

「そういえばもうお昼だなー」

「そうだねー、もうお昼だねー。付き合わせてごめんね?」

「いいや、俺も楽しかったからいいっこなしだ。また来ようぜ」

「うん! 後ね、お昼ご飯何だけど……。作ってきたんだ! だからその……」

「公園でも行くか? アーケード出たら広い公園あったよな」

「うん! 今日は天気もいいしね!」


 彼女がお弁当を作ってきてくれたという事実に内心もう小躍りをしている。自分は平静を保てているのだろうか。
いや絶対顔はにやけている、その自信はある。
そしていつも何気なく食べている彼女の手料理が、今日はとても特別に感じる。なんだかそのことにむずがゆさを感じずつ商店街のアーケードを抜け公園に向かう。
 なんだかスキップしてしまいそうな両足を抑えつつ、隣の彼女に歩幅を合わせる。
昔は彼女を引き連れまわって遊んでいたのに、本当にいつからなんだろう。彼女も当たり前の様に隣を歩いてくれる。ああ、幸せだなと実感する。

「しかし、ホント一気に涼しくなったよなー」

「台風が過ぎてからいきなり涼しくなったよねー。ホントいきなりだったからお肌の乾燥が……」

「そんなに変わったか? 確かにカサカサすんのは嫌だよなー」

「なにー、私の顔じろじろ見ちゃってー? 何かついてるからー?」

「うっわー、ちょっと恥ずかしくて教えられないかな……。いや、けど……」

「え、本当に何かついてるの? ちょっとやだ! 教えてよ!」

「嘘だよーん。何慌ててるんですか?」

「あー、お弁当どうしよっかなー?」

「ごめんって! 何でもするんでお弁当下さい!」

「仕方ないな? そんなに涎たらされちゃあ食べさせてあげない訳にはいかないじゃない?」

 いつものような掛け合いをしながら、アーケードを抜け車道の脇の歩道を歩く。いつもの会話の空気が今日はいつも以上に心地がいい。
秋の乾燥した空気も相まってか、どこか体も軽く感じる。そうやっている間に自然公園というのだろうか、一面に芝生が敷き詰められた公園に着いた。

「おお、意外と空いてるな。そういえば敷き物とか持ってきてるの?」

「ふ、ぬかりはないぜ! じゃーん! なぜかきりんさんの柄!」

「かわいい……のか? まあとりあえず敷くから貸してよ」

「おお、おっとこまえー! あ、結構大きいね! 寝転がれそう!」

「昼寝とかするのもいいかもなー。今日はほんといい天気だ!」

「その前にお昼ご飯にしましょ! はいと、とりあえずおかずは無難な感じだけど……」

 そういって開けられたお弁当箱の中身は、こちらのことも考えて少し量を多めにしてくれたのだろう。一段目にはおにぎり、二段目は玉子焼き
たこさんウインナーなど彩にも気を使っている様だった。普段では見れない気遣いに感動しつつ、おにぎりをいただくことにする。

「あ、おにぎりの中身は梅干しとおかかがあるよ!」

「お、丁度おかかだ、……うん、おしいよ」

「ほんと? じゃあじゃあこっちのおかずも食べてみてよ!」

「じゃあ、定番の卵焼きを……」

「出汁巻き好きだったよね……。どうかな」

「おお、うまい! やっぱお前の料理はうまいよ」

「えへへ……。ありがと!」

 いつもなら相手から茶化すようなことを言ってくるタイミングだが。今日は何だか素直で調子が狂ってしまう。
元々、気持ちを確認してからか、自分の心の調子は狂いっぱなしなのだが。
 しかし今はありがたく彼女の料理を噛み締めて頂くことにする。いつもと変わりない料理のはずなのに、とても特別に感じる。

「うん、ごちそうさま」

「お粗末様でした」

「はあ、本当に何だろう。おいしいのも有るんだが、お前の味は落ち着くっていうか」

「なに、お袋の味的な感じ? まだぴちぴちの二十歳なんですけど! まあ、褒めてくれるのは嬉しいけど……」

「素直においしいよ、ホントいつもありがとなー」

「お礼は、そうだなー。 駅前のキャッツカフェのパフェで!」

「バケツサイズの奴だったらいいぞ? 俺は甘いもの駄目だから一人でどうぞ」

「何処の罰ゲームですか! 私だって無理だよ!」

「仕方ないなあ、普通のサイズ奢ってやるよ」

「じゃあじゃあ後で行こうよ? ついでにあっちにも行きたいお店あるし」

「そうだなー、けどもう少しここでゆっくりしてこうぜー」

「そうねー、あー食べてすぐだけど寝転んじゃお!」

「俺も寝転ぼうっと。あーまじで風がきもちー」

「そうだねー、さわやかってこういう風のこというんだろうねー」

「だなー」

 少し行儀が悪いのかもしれないが、たまにはいいだろう。本当に気持ちがいい。
公園の少し奥に来たので、外の車の走行音などはほとんど聞こえず、風に芝生が揺れる音が眠気を誘う。

「――ねえ、私今すっごく幸せ」

 呟くように出たその言葉は、何だかこちらも幸せになるような。
今までの嬉しくて、興奮するようなそれとは違う。心の真の奥に響くような、子守唄のように落ち着く響きだった。



 それからはまたアーケードを通り、また違う駅ビルの中の雑貨屋さんに行ったり、駅前のカフェで休憩しつつ、またアーケードをうろうろしたり。
正直自分が練ってきた当日の予定とは違うのだが、楽しかったらよしとすることにしよう。
 そして今はお弁当箱を持ってきた彼女に荷物を持たせ続けるのも悪いから、晩御飯は家で作ろうという話になり。
その後に買い物を終えて、もう空も夜の帳が降りそうな、そんな時間。何だかふわふわしている空気が二人を包む。

「今日は楽しかったよ。ありがとう」

「こっちこそ……。パフェも奢って貰えたし! 大満足かな?」

「それはなにより。 明日からは学校かー」

「そうだねー。 また普通が始まっちゃうね……」

 そうなのだ、このまま終わってしまってはまた普通が始まってしまう。何か言い出すきっかけはないかと探っているが
そもそもこのタイミングで言っていいのか、もう緊張で思考が定まらない。喉がからからと乾く感覚が体に響く。

「あ、一番星! こんな処でも見えるもんだねー」

「あー、ホントだ。この辺りは郊外だしな。あ、そうだ、これさっき雑貨屋さんで買ったんだけど」

 自分でも無いなと思ったタイミングだが、丁度星の話だ。行ってしまえ。

「わあ、すごい、星だー! ガラス……なのかな?」

 それは立方体の星形のガラス細工。鉄の枠にガラスがはめ込んであり、角度によって色々な色が楽しめる。

「昔さ、お前がしてくれたじゃん、一番星を見た相手と幸せになれるって」
 
 今がタイミングだ、勢いで言ってしまえ。走りだしたその気持ちはもう止まらない。

「昔は無邪気でさ、幸せとか、そんな言葉の意味なんて考えなかったけど、今は分かる気がするんだ。
今日もさ、お前と一日中一緒に居て、昼ご飯を作って貰ったりして、一緒に買い物して。お前の嬉しそうな表情を見てると
――ホントに幸せなんだと思う」

 ふと彼女の表情を見ると、じっと、まさしく真剣にこちらを見据えている。その眼はまるでまだ肝心な言葉が残っているだろうと
気持ちはそれだけなのかと急かすように。

「だから、お前のことが――好きだ」

 ここまで捲し立てた疲れなのか、果たして緊張からくる動悸なのか。心臓がバクバクと鳴っている。
今開こうとしている彼女に口から目が離せない。

「ホントはさ、この前デートに誘ってくれた時。顔がにやけそうになるのを抑えるの大変だったんだよ?
だってさ、ただの腐れ縁でここまで一緒に着いてくると思う? そんな訳ないじゃん! ずーっとこっちは
意識して意識して大変だったのに、そっちはそんな素振り見せないし」

 そういった彼女の眼は潤んでいた。鼻も少し赤い。しかしそれでも彼女は止まらない。

「それがだよ、そんなあんたが、こっちを向いてるって分かってすごく嬉しかった……。本当に、飛び上がりそうなくらい
だから今日だっておめかしして……、普段穿かないようなスカートでアピールしたりとか、必死だったんだからね!」

 彼女の剣幕に少したじろきながらも目を見つめ続ける。取り敢えず言いたいことは言ったのだろう一息ついて――。

「だから、もう一度。もう一度ちゃんと目を見て言って。お願い」

 そう言った彼女は何処か不安そうで、まるで母親を探す子犬の様で。その言葉を待つ。
こちらとしてはものすごい勇気の居る行動だったのだが――。惚れた弱みだ仕方ない。
もう一度覚悟を決めて深呼吸。

「もう一回言うぞ! すーっはーっ。 あああああああ!」

「いきなりなによ、はやく、待てるんだから……」

「言うぞ? ちゃんと聞いとけよ」

「――うん」

「俺は、おま――君のことが好きだ。付き合ってほしい」

 そういって目を合わせた瞬間、彼女が自分の視線を覆う。
――抱き寄せられたと、認識した瞬間に触れるように唇に柔らかい感触。それが何かと認識するのにも数秒。思わず唇をなでる。

「ご褒美よ! 散々待たせたんだから! まだ言葉はあげない。だって悔しいんだもん」

 女心は複雑というか、今までわからない振りしてきた自分が悪いと言うか。それも結果オーライだ。本当に叫びたいほどに嬉しい。

「付き合うってことで……いいんだよな?」

「当たり前でしょ! ここまで言って違うなんて言ったらぶっ飛ばすから!」

「あー、やばい。嬉しすぎて叫びたい……」

「恥ずかしいから止めてよね!」

 そういった彼女もどこか嬉しそうで、その嬉しそうな表情をさせた起因が自分だと思うと本当に嬉しい。
彼女が荷物を持つ手をを変えたなと、そう感じた瞬間、柔らかい、一回り小さな手が少し触れる。

「――んっ」

 鈍い自分でも流石に分かるそのアピール。そっと触れた手を握るとあちらも少し力を入れて握り返してくる。
そんな簡単なふれあいに幸せを感じずつ、アパートまでの道のりを二人より添って歩いて帰る。

「ふふ、かえりみちいっしょ!」

「はは、いつものことだろ?」

 何時もの事だが、悪くない。そうやって当たり前を幸せに感じられる隣の人間の存在に偉大さを感じる。
相手もそう思っていてくれたいいなと、そう願う。表情を見ているかぎり、心配はなさそうだが。

空はすっかり闇に落ち。ぱらぱらと小さな光がこの街を照らす。

何故だが最初に見つけた一番星だけハッキリ見えた。

それが何だか自分たちを祝福しているみたいで

に腐れ縁で、幼馴染で、大切な隣の小さな存在を

幸せにするとその一番星に誓うのだった――

SS 日常 2

「きーみがすきー」

「音痴やなー」

「うるさい! 気持ちよく歌ってんだから邪魔すんな!」

「聞いてるこっちの身にもなってくれませんこと?」

「俺の歌を聞けえええええ!」

「はいはい、近所迷惑だから止めましょうねー」

「ぶーぶー。あ、がまちゃん寄ってこうぜ」

「お、いいね。久しぶりにあそこのたこ焼き食いたい」

「いいねいいね! 俺はチキンカツだな! 部活終わった後だし腹減ったー」

「それにもう7時過ぎたしなー。閉まる前にちゃちゃっと行っちゃうか」

「おうよ! あ、そういえばあそこ駄菓子置かなくなったよな」

「なんでだろなー。駄菓子嬉しかったのに」

「けどメニューは豊富だからいいんだけども、それに安い!」

「まじで学生の味方だよなー。お、空いてる空いてる」

「おばちゃんチキンカツ3個ちょうだーい!」

「俺はたこ焼き16個入りくださいーい」

「うわ、お前小銭持ってる? 五十円と変えてー」

「はあ? 仕方ねえな。ほらよ」

「あざーっす! これでピッタリ。まじスッキリ」

「変な処で几帳面というか何となんというか。あ、たこやきあざーっす! 300円どうぞー」

「お、チキンカツ揚げたてじゃん? まじ最高! おばちゃんありがとー! はい、210円っと」

「こっちの席あいてんぜ」

「いくいくー。たこ焼きにソースかけてるから待っといて」

「じゃあ、俺は先にいただきまーす!」

「あ、待てっての! あっれー、カバンの中のお茶がどっかいった」

「ほい、やんよ。俺もういらね」

「綾鷹かー、俺は十六茶派」

「文句言うならあげなーい!」

「冗談だって! ありがたくもらうよ」

「最初からそういえばよろしい!」

「へいへい。まあ別に綾鷹が嫌いな訳じゃないけどねー」

「じゃあなんで文句言ったんだよ。……反抗期?」

「そんなこと言ったら永遠の反抗期だぞ」

「あ、マヨネーズこぼれた」

「あーあ、何やってんだよー」

「っんぐ。ちょっとつけすぎたかなー」

「はっふ、はっちいはちい!」

「たこ焼きいっぺんに食ったらそうなるだろ! ほら、茶!」

「んー! ぷはあっ。あー舌いてえ」

「何やってんだか。人の事言えないじゃないですかー!」

「うるせえ! たこ焼きぶつけんぞ!」

「食べ物は粗末にしちゃいけないって習わなかったんですかー? 熱いアッツい! ほっぺにおしつけんな!」

「ほら食え! 熱くてうまいよー?」

「あっふい! あははははは!」

「ほらお茶」

「こにょやろ……、ぷっは。あー熱かった」

「ざまあみろ! あーチキンカツうまい」

「ちょっと何食ってんの! もう一個たこ焼きもーらい!」

「仕方ねえなあ……。ていうかもう十月かー」

「部活も大会なくなるもんなー。 次の新人戦終わったら4月まで無くね?」

「これからは自主トレ期間かー。つまんないんだよねー。普通にやりたいよ」

「まあたまにはやるでしょ? まあ実際すぐ三年だよ」

「先輩も引退しちゃったしな。 張り合いないよなー」

「そういうなよ! 俺が居るじゃん!」

「ぶっ潰すまでやるよ?」

「……お手柔らかにお願いします」

「ていうかもう電車の時間だな。そろそろ行くかー」

「あー、晩飯入るかなー。まあ電車1時間も乗ってりゃ減るか!」

「うわ、母さんからメール来てる」

「早く帰って来いってか?」

「いやそんなところ。晩飯チキンカツだって」

「俺の一個しか食ってないから別にいいじゃん」

「まあ、育ち盛りだからね。余裕っしょ」

「まあ、急かされてるっぽいし余裕もって駅行きましょうかねー。あ、ゴミ捨ててくる」

「俺のも頼むわー」

「おうよー、おいてくなよ? 言ったそばから行くなってよ!」

「そしてお前の財布も預かっている!」

「馬鹿かよ! 何やってんだよ!」

「はは、返して欲しかったら、早くこっちまで来るんだな!」

「っち、そこで待ってろ!」

むさ苦しいんだよおおおお!

「海だあああああああああああ!」

「海だあああああああああああ!」

「うおおおおおお! あっつ、砂浜あっつ!」

「うおおおおおお! うはははばっかでえええええ! あっつい!」

「うははは! 何やってんだお前! うおおおおお、海ぬるいいいいいいいい」

「うおおおおおお、もっと熱くなれよおおおおおお!」

「修三さんはかえってー! くださいー!」

「お前ももっと熱くなれよおおおおおお!」

「近寄るなあああああああ! ちょ、浮き輪は俺のだっての!」

「浮き輪は無くなったんだ……。いつまでも頼るなあああああああ!」

「お前が無くなれえええええ! 足届かないいいいいい!」

「うははざまあ(笑)」

「せめてしがみつかせてええええええ」

「1分100円で」

「俺の浮き輪じゃい! あー、おぼれるかと思った!」

「あれ? まだ生きてるの?」

「わっしょーい!」

「うわ、ちょっと浮き輪取るなって!」

「俺の浮き輪ですー! ていうか疲れた!」

「最初のテンションは何だったんだろうか……」

「ほんとだな……。一回上がるか!」

「おーう」

「てか結構流されたな。ほら、浮き輪を押したまえ」

「後でジュースなー」

「ちょっとなに言ってるか分かんない。お、かわいいねーちゃん!」

「はあはあ、え、どこ?」

「ほら、波打ち際」

「かわいいかー? てか隣居るの彼氏じゃね」

「彼氏持ちかよー、萎えるわー。」

「かわいいならいんだろ。お、足着いた!」

「波打ち際石が水着の中入るからきらーい」

「だったら立ってあるけや」

「ほーいよっと。あ、かき氷だって」

「え、おごりだって? あざーっす!」

「高いからやだね! 後でコンビニで奢ってやるよ」

「まじで! あざーっす!」

「ここでポイントを稼いでおけば女子にモテるかもしれない!」

「一体何処の女子がみてんだよ」

「お前が広めろ! あいつまじでイケメンだぜーってな具合に」

「ああ、まじで屑野郎って広めればいいのね」

「はあ! ちょん切るぞてめえ!」

「何処をだよ! いやあ、アイスも奢ってもらえてお前の噂も広められて一石二鳥ですわ!」

「これはもうちょん切るの決定ですわあーかわいそう!」

「また生えてくるし? 問題ないし?」

「マジかよ……。気持ち悪いな……」

「嘘だって! ねえ、目を合わせてよ!」

「……」

「……」

「なあ、思ったんだけど」

「なんだ、トカゲ野郎」

「忘れろって! いや、周りカップルだらけだね……」

「そうだな……」

「……」

「……」

「おらあああああ!リア充爆発しろおおおおお!」

「海に沈んでまええええええ!」

「うわ、みんなこっち見た!」

「逃げるぞ!おらあああああ!」

「うおおおお! あ、帰りコンビニでアイス奢れよな!」

手袋を買いに

「うわー、ひゃっこいよ!」

「冷た! いきなり顔触るな!」

「だってさー、手袋忘れて私だけ寒いのは何だか不公平じゃない?」

「お前が忘れたのがどう考えてもいけなくない?」

「なんだー! 寒がる女の子をほおっておくのが男なのかー?」

「女の子? どこかなー」

「おらー! 凍える手の攻撃!」

「当たらんよ!」

「腹立つわね……」

「はいはい、悪かったよ。ほら、俺の手袋貸してやるよ」

「え、いきなりどうしたの」

「ほら、俺紳士だし?」

「自分で言うと台無しだね! けど手袋は借ります!」

「おうよ、汗臭かったりとかないか」

「……うわ、いかくさい」

「は? そんな訳ねえだろ! それお前の手のにおいじゃね?」

「嘘ですー! 大体花の乙女の手がイカくさい訳ないでしょ!」

「はいはい、花の乙女が街中でイカくさいとか大きい声で言わないで下さいねー」

「うるさーい! もういいもん!」

「はいはい、イカくさくないように今日手袋洗っておきますよ」

「別に洗わなくていいもん! 罰としてこの手袋は預かっておきます……」

「何でだよ……。明日から俺寒いじゃん!」

「何でもなのー! 変りの買ってきてあげるから……。駄目?」

「まあ別にいいけど……。」

「むふー! ありがと! 帰ったらこの手袋は八つ裂きです!」

「そんなに普段から怒りをかっていたのか! お前の手袋も寄越せよ」

「嫌ですー! あ、そういえば!」

「なんだよいきなり」

「2組の女の子に告白されたって……、本当?」

「誰から聞いたの?」

「ああ、君の親友君がね……。教えてくれた」

「ああ、あいつがか。まあされたよ」

「…………」

「…………なんだよ」

「んー? ――それで付き合っちゃうの?」

「いや、どうしてそうなるんだよ」

「だって……。結構かわいいって聞いたから!」

「別に人を容姿だけで選んだりしねえよ! それに初めて話したしな」

「あんた女っ気ないもんね……」

「何気に失礼だな! 同情するような目はよせ」

「いいじゃない、付き合っちゃえば?」

「馬鹿言うなよ、そんなに軽い男じゃねーよ。 ……女っ気が無いのはお前のせいだろうが」

「はあ、なんて言ったの?」

「何でしょうね! まあとにかく、断らせて頂きました」

「ふーん、勿体ないの! 最後のチャンスだったかもよ?」

「別にー? 俺意外とモテるし!」

「え……。本当に?」

「何で泣きそうなんだよ! お前のほうがそういうの聞くだろうが!」

「いや、だって本当に結構モテるし……」

「あああもう! そういうのになびくつもりはないよ! なんでいつもお前と一緒にいるか考えろよ!」

「……はい?」

「何だよもう! さっさと帰るぞ!」

「ねえどういう意味なの! ねえねえ!」

「にやにやすんな! くっそー、なんでそんな余裕なんだよ……」

「うわあ! 顔真っ赤真っ赤! うわ、逃げるなー!」

「うるせー! ちゃんと手袋の変わり持って来いよ!」

「……言っちゃった。けど、あいつもだったんだ。」

「――むふふー! さあさくっと手袋でも買いに行きますか!」

飛鳥さんの短編集

飛鳥さんの短編集

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更新日
登録日
2012-11-26

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  1. 自己紹介
  2. 星空 独白
  3. SS 日常
  4. 海、時々少女
  5. 幸せは何時も、記憶の中に。
  6. 幸福の国
  7. 乗船実習
  8. Destrudo
  9. 俺たちの戦いはこれからだ!
  10. 一番星に願いを 前編
  11. 一番星に願いを 後編
  12. SS 日常 2
  13. むさ苦しいんだよおおおお!
  14. 手袋を買いに