「愛染」

 私、すごく幸せだ。バチが当たるんじゃないかってくらい幸せ。だって、先輩が優しい。少し前まではすぐに手をあげていたのに最近は全然痛いことはしてこなくなったし、私を見る度に「ごめん」って謝ってくれるようになった。素直になった先輩はやっぱり可愛い。「別に私怒ってないですよ、先輩が私に手をあげてしまうのは愛故なんですから」そう言いたいんだけれど、躯に上手く力が入らない。先輩がずっと泣きそうな顔をしているから抱きしめてあげたくなる。先輩は本当に優しくなった。もう愛されていないんじゃないかって不安になるくらい。
 今日なんてお姫様抱っこで車の助手席に乗せてくれた。ドライブデートなんて付き合ってから初めてなので本当に嬉しい。先輩は大きな手で私が座る助手席を倒してくれる。顔が近くてドキドキしてしまうのは先輩にバレていないだろうか。
 少し車を走らせ目的地に着くと先輩は何やら穴を掘り始めた。子供が砂遊びをしているみたいに真剣なので思わず笑ってしまう。掘り終えた穴に先輩は私を寝かす。投げ入れたっていいのに、こんな時でさえ先輩は優しい。視界がだんだんと黒い土で狭まっていく中考えることはやっぱり先輩のことで、無事家に帰り着きますように、なんて願ってしまう。

「愛染」

「可哀想だ」と世間は言うかもしれないけれど、本当に不幸せだとは限らないですよね。

「愛染」

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-04-14

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