静謐2
雪がアコードに降り積もり始めた。車をコンビニに停めてコーヒーを買った。
連絡はいつくるのだろうか?俺はいつまで待たなければならないのだろうか。
風が強くなってきた。携帯電話をゴミ箱に捨てることも考えた。しかし替えたばかりの最新型アイフォーンを捨てることはできなかった。それよりも電話の相手に興味があった。何故、俺が選ばれたのだろう。俺はヒットマンとして兼ね備えていたのか?俺が殺すのは見ず知らずの相手なのか、それとも知っている相手なのか。分からないことが多すぎた。このまま逃げ出すことはできないのだろうか。その場合、リスクはあるのだろうか。俺が殺されるということはあるのか?相手は命令だと言っていたはずだ。殺したところでどんな利益が俺にあるというのだ。とにかく自宅に帰ってゆっくりと休むことにしよう。今日は大変な一日だったことは確かだ。暗殺だか、殺害だか、何だか知らないが、たいそうな話が持ち上がった。まるで夢のような出来事だ。温かいシャワーを浴びても全てを消し去ることはできないだろうな。
自宅に向かう中で吉住が考えていたのは生き残るという思いだけだった。
自宅に帰ると猫のミミが足にまとわりついてきた。
「ミミ、お腹が減ってるんだね。ちょっと待ってな。煮干しをあげよう」吉住は棚から煮干しの袋を出して皿に盛って床に置いた。
「おいしいだろう。新鮮な煮干しだ」ミミの頭を撫でながらそう言って、冷蔵庫からビールを取り出した。
食卓で冷たいビールを飲みながら目を閉じて今日の出来事を振り返る。男の声、ダークな感じだったこと、沸々(ふつふつ)と怒りがこみ上げてきた。
なんで俺が命令を受けて人を殺さなければいけないんだ!冗談じゃない!冷静になるんだ。動揺するんじゃない。これはただのお遊びさ。俺はバカにされただけなんだ。気分を落ち着けろよ。今日は酔っぱらおう。何もかも忘れてしまうんだ。
お休み、ミミ。俺は今日のことを忘れてしまいたいよ。醒めた後、全てがお伽話だと感じられることができるなら、俺は片腕を失ってもいいと思っている。そのくらいにとても怖いんだよ。俺に頼れるのはミミ、お前しかいないんだよ。ミミ、いったいどうしたらいいんだろう。
布団から起き上がると頭痛がして、また枕に顔を押し付けた。
「まいったな、まったく!俺は何をしているのだろう」
テレビをつけてみると、ニュースキャスターが株価を読み上げていた。どうやら俺に伴う事件は起きていないようだった。勿論、俺は誰も殺していない。
携帯電話が鳴り出した。唐突な鳴り方だった。
「はい、もしもし吉住です」
「ミスター吉住か。テレビでは何もやってなかっただろう。これは洞察だがね。テレビは魔性だよ。君にまつわる話題は今のところなしだよ」
「あなたはいったい何者なんです。自己紹介もなしですか」
「わたしかね…。歴史上の人物でいうならば織田信長というところか…年齢的に人生五十年…下天の内を…くらぶれば…」
「冗談はいいですよ…、わたしが知りたいのはあなたの本名というか、何が目的なのかということです。いったい何を望まれているのか?そういうことです」
「言ったはずだ。ある人物の殺害だとね。わたしが自ら行動を起こせたらと思う。しかしわたしにはどうしても出来ない事情があるのだ」
「なぜわたしが殺さなければならないのですか?」
「それは後々、君の為になることなのだよ」
「わたしの為になるだって?」
「そうさ、そうじゃなかったら、何も君に頼むことはないだろう」
「わたしの為になるからといって人を殺すなんてできません」
「これは命令なんだよ。その人物を殺さなければ後々数万の犠牲者がでることになるんだ。いわゆる正義の鉄槌だよ」
「数万人の犠牲者?」
「そうじゃ、そいつはとても危険な人物なのじゃ。
静謐2