心理世界の守役 NG集 テイク1~3まで

  NG集 
 
 テイク1

「見つけたーっ! 守役とそこの少年っ!」
 背後から声が聞こえた。
 振り返れば、視線の波がぼくたちに向けられる。
 よし、上手くいってる。後は台本通り、ぼくが愛歌ちゃんの手を引いて――
「あっ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「愛歌ちゃん、行くよっ!」
「ってだから! ちょっと待ちなさいって、言ってんじゃないの――っ!」
 またも背後から怒ったような声が聞こえた。
 ここでぼくは、鞄をぶつけられる手はずになっている。
 後はそれを、上手く当たったふりをして避けて……
 って!
「っっっ!?」
 直撃したバッグが、ぼくの頭を思い切り揺さぶった。
 ゴンっ! とめちゃくちゃやばい感じに教科書の角がぼくの頭にぶつかって……っ。
 い、痛っ! マジ痛いよこれっ!
「やっと落ち着いてくれたわね」
 目の前に立った彼女が、台本通りの台詞をぼくに投げかける。
 ここで、ここで台詞を返さないといけないんだけど――!

 ……チーン。

「カーット! カットカットカットーっ!」
 監督の慌てる声を聞きながら、ぼくの意識は天国に上りました……

 


 テイク2

 死ぬをことを忘れたぼくが、少女の胸から刀を引き抜く場面。

 振り下ろされた漆黒の刃を、ぼくは間近に見つめる。

〈力が、欲しいか〉

 そんな声が聞こえた。
 ……よし。
 後は、この少女の胸の中で掴んだ刀を、思い切り引き抜いて――

「くッ!」

 瞬間、だが呻き声を漏らしたのは何と廣瀬さんではなくぼく!
 えっ、えっ、何で!?
 何か突っかかって、刀が抜けないよっ!?
 ……って、あ、あれ。
 これ、かなりやばいんじゃ――
 振り下ろされる漆黒の刃。
 ぼくの瞳に映る、殺人の光。
 斬ッ!!

(ひ、ひぃいいいいいいいいいいっ!?)

 


 テイク3

「いやだーっ! おふろやなのーっ!」
「え? ま、また?」
「またじゃないもん! あ! じゃ、わたしゆうおにいちゃんと入る! ゆうおにいちゃんとだったら、おふろ好きになるかも!」
「ええ!?」
 お風呂場から逃げて来た愛歌ちゃんがぼくに抱きつく、このおまけシーン。
 意外とここ、役所で嬉しいんだけど……なんて思っているのも束の間、目の前に花音が立ったのを確かめたぼくは、次の台詞を口にする。
「か、花音、ちょっと助け……」
「ほら愛歌ちゃん、早く戻って。ごめんね、ゆうくん」
 このシーンは完全なおまけなので、正直に言ってしまうと、おいしいところではあるけど、めちゃくちゃ恥ずかしいシーンだ。
 特に、今から起きるここは……
「きゃっ!?」
 短い悲鳴が聞こえる。
 ここは、慎重に、慎重に。
 ふにっ。
 と手の平が『何か』を掴んだ。
「あ、んっ……」
 あ、あたたかい……信じられないくらい柔らかくて、あったかくて……
 ……って!

「んんっ! んんんっ!?」

 花音の白い肌に、赤い液体がぽたり、ぽたりと落ちていく。
 や、やばっ、鼻血が止まらな――!
「んんんんんっ!」

「カーーーーーーーーーーーット!!」


 

心理世界の守役 NG集 テイク1~3まで

心理世界の守役 NG集 テイク1~3まで

本当は最終話のあとがき辺りに書くはずだったものです。 ま、ちょっとした遊び心ですね(笑)

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更新日
登録日
2012-11-26

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