水月
とても長編なので、話数に区切って投稿します。
第0話 〜私の中の私へ〜
「何がしたいの?」
6畳一間の小さい部屋、夕日が沈むか沈まないかの薄暗い時間、一人静かに思い耽っていたのだが、どうやら言葉に出ていたようだ…。
普通、“独り言”というのは、自分以外には聞かれるものでもなく、分かってくれるものでもなく、ただただ儚く消えてゆくものだ。
自分の思いや考え、疑問、葛藤などを、“言葉”にし、それを相手に投げかけ合うのが“会話”だとしたら、それに比べると“独り言”というのは、言葉の不発弾のようなものだろう。
「じゃあ君は何がしたいの?」
頭の中で声がした。…いや、“言葉”が生まれたと言うべきだろう。とにかく、疑問の答えを疑問で返されるほど、苛立ちをおぼえる事はない。
「特に今したい事なんてない。ただこうして緩やかな時間を過ごせれば、“僕”は満足」
「年寄りみたいだね。若者の言うセリフじゃないね。“ぼく”ならしたい事いっぱいあるけどね!」
声無き会話の中、例えば?と、聞いてみる。
「うーん。これはしたい事じゃなくて、して欲しい事、かな!」
「何?して欲しい事って」
「…しばらく“交代”して欲しい。行きたい場所があるんだ。自分の足で、行きたい場所が…」
ゆっくりと、ゆっくりと沈みゆく意識の中、また言葉が生まれた。
「昔話をしてあげる。楽しかった“あの頃”の話を…。退屈しないで済むでしょ?」
“止めておけばいいのに…”
水月