青空
どうしようもなく苦しくなってきた。でも、まだ苦しくなれる事に救われていた。絶望すればするほど救われていた。
俺の物差しで正確に測れたものなんざ、何ひとつ無かった。感情の背景ばかりを気にする余り、感情それ自体を愛する事から避けてきたのだ。今になっていえるが、失っていい感情など、一つとしてありはしない。心は命同然だ。
偽りにも価値がある事を知った時、俺は初めて偽善者で構わないと思えた。達観したつもりで立ち止まっているより、往生際悪く走っていた方が増しだ。お前にとっての偽りが、俺にとっては真実の寄せ集めだから。
胸の空洞を吹き抜ける風を感じながら、ただ走れ。つづける事にしか意味は無い。沈黙に勝る愛は無いとわかっていても、それでも叫びつづける事が俺の正解だった。追いつく前に、どこかでぶっ倒れているかもしれない。追いついた時には、俺の無様さを笑ってくれ。
すべては、わすれない為にやっている俺のエゴだ。想いを枯らさない為にやっている、無駄かもしれない足掻きだ。それでも俺はつづける。つづけるしか能が無いから。
空は残酷だ。みつめるたびに、誰もが空の下にいる事を思い知らされる。でもいまでは、その残酷さが俺は好きだ。
ただ、走りつづけている。
ただ、名前だけを叫びつづけている。わすれない為に。
青空