偶々

mute


・冷たく、気高く


骸なんてそこに居ない
広い大地の上にいない
それは静かに眠るから
安らぐ心に眠るから


白刃煌めく
夢の中
騎士の鎧が
錆び果てた
切れる端から
カーテンの
向こうのドレス
脱ぎ着され
裸身が示す
落日の
墓となるべき
城壁は


しく、しく
しく


知っているよ、と答えたところから
「  」が取り出し
泥を払って
土を擦って
地肌の白さを、
出来るだけ表していって
ときどき撫でる。
いいこ、いいこと
曲げる意思から人の顔は、
ああなって見えるよ。
しゃれこうべ、なんて
知らないけどさ、
踊る足だけ細くなって
支える腰から消えていく。
円を描いて、
回る月。
陰と、
日々の堆積と自重のことを
詩句が語って、歩き去ったというのに。



心の臓はここにあるんだから、
君らの事を知る者はだからこうして、
居なくなる。
それを


残酷と言うかい?
残酷、と罵りたい?
朽ちない無形の口径の
隙間をぬける風に乗せて
聞ける時間はあるんだねって
魔女の使い魔が、
指差して
絵本の終わりを残すんだ。


「ぼくらこうしておわるんだ。」


詩句を駆使して語ったら、
「  」は覗き込んで
こう言った。


詩句を転がし
遊ぶのさ
道化と子供の特権を
捨てる闇夜の
篝火に
燃焼された
紙束の跡を追う。


ガイコツの顎を動かして
冗談みたいに
笑っていて。
唄うから。


疾るから。


ガイコツなんてそこに居ない
広い大地の上にいない
それは静かに眠るから
安らぐ心に眠るから、
思う土の只中で
低く吹く風知らぬまま
熱い昼間届かずに
欠けて優しく、夜の陽の
忍び込むから後悔と
明日の希望に歯を鳴らし、
瞼取られた形して
折り重なって、
眠るんだ。


外した顎で、名乗るんだ。



・ニュー・オールド


帽子で隠した室内の
匂いを嗅いで去らぬ日を。


手入れを怠る。
主を切り
取り戻すのさ、
西の日の
暮れる影に染まらぬ
模型街


横から当てる
人の手に成る
歩く姿の
ガンマンショー


シーン
カットの
数え唄


かたかた
壊れる窓の枠
わたしわすれて
あいのての
あなたなくして
いえないの


涙失くして
欠伸して
瞳、両目の
猫の目の
熱い木陰の
コマをわり


男が置いた
保安官。


転がる風の枯れ草を
主役とするが
死なせはせぬ。


揉み消す煙は立ち上り
スクリーンバックの
カッコ良さ
反射の世界に並ぶ背の
座らぬ者の姿だけ、
赤い顔した
座席だけ。


不在の背広が叫ぶだけ。


何が起きたか分からない
字幕の君を受け止めて
一語、一語を
共にする。
台詞回しを癖にする。


映写機、
と記せば強くなる
世界の色を拒絶して、
見える視界のイメージを
強く焦がして焼き付ける。


古い祈りの色
もどかしい間
並んで歩く数
横顔の可愛さ
こちら見る刻
交わされる物
壊れぬ様に


一語を取った。


持て余す古き良き心。
室内で寝るための
ハット。


足を組んだら負けなのさ、
だからお前はそうなった。
そうして始まる。
二人の間。


早撃ち、
ガンマン、
長い嗎。


着いた決着があるというから
映せることも無いのだろう。
ボードに乗せた
指を押す。
半端者。


渡し忘れて
合いの手の
貴女無くして
言えないの。


あなた失くして
癒えないの。


溜め息一つ。
古い匂い。


手垢が付いたことばを掻き
耳を残して、
足を出す。
姿、男の髭だけは
消せない恋の歌謡曲。


天然色の君だけは、
ずっとここにいて欲しかった。
走る車の街中で
伸びるライトを掴まずに。


劇場、赤く幕を引き
白い背広の。
スカーフ落とした、


長いお休み。



・証明


紙を何度も折り曲げた。
それの強度は増すと聞いたから。


証明するのは簡単じゃない?
一度も裏切ることなくその人が、
その命を終えたなら、その人は、
裏切ることはできない。
そうでしょう?
だから、証明されている。
裏切れない、そういう形で。


あるいは
最後の言葉を聞けたなら、
最後の言葉がそうだったなら。


けど、
本心ってものを考えると、また違う。
裏切らなかった、という事実はそのまま
裏切らなかったってだけの事実になる。
そこにあるって言えなくなる。
そこにあったって、自信がなくなる。


本心、という言葉が
本物、みたいに聞こえるんだから。


証明されたって同じ、
そういうことが知りたくて、
持ってみたくて、
投げてみたくて、
壊してみたくて、
嫌になる。



本心を知るため。
やれること。
あれで良し、
これで良い。
そして、
あの事で否定して
この事で。
もう止める。


何が本心を表すか。
知ったことか。
不貞腐れ。


信じることさ、
そうなんだろうけど
自分の心さ、
そうかもしれないけど
与えるものさ、
そうだろうけど。


そうなんだろうけど、
思い、思われる融通を求める。
それが悪いとは思わない。


『ラストレター』って映画にさ
沢山あった悲しいことも
救われた、数少ないことも
繋いだものがあったでしょ。
姿、景色に取り憑かれて
そのくせ、
二度と戻らなかったあらゆるものに。
居なくなっても、
行いが残った。
シャッターが切られた。
全てが去った。


不可逆な結末に
彼女になった、あの子の笑顔に、
憧れた。
そう言えるから、これも証明。


書いてみたら難しくて、
恥ずかしさとも闘いたくて、
書き出した動機ときっかけから、
始めてみたら、離れられなくなって、
綴る。


宛名未明に
漂う、
波打つような表の文字に
推敲の谷間で蠢くものの
気配を見つつ、
薄曇りを目指した
私の心。


デジタル表示の、安易な日付けを半分に割った。
辞書に接して、
探す『恋』まで。


あなた好みのうす味を消した
二人前の
茹で上がりを、冷ますことまで。


啜る、見つめる、
口つける。


レベッカ・ブラウンが書いた、あの二人みたいに
あまりにも強く結ばれたいって、
思ったことから
解きほぐしていって。
志賀直哉のことはよく分からなくても、
綺麗な言葉に流れていって、
檸檬の色を探して入った。
丸善の中の、文庫の前で、
あなたの好きなあの子を探して。


私は、と決めた本心を支払って。


折り曲げた紙を便箋って言うんだってさ。
そんなこと信じられないって、顔を見せてね。
私の好きな偏屈だから、
捻り、曲がって、
こうして囲む。


「わたし」を壊して、前に進む。


回る心から、巡ることまで、強く、強く届けるから。

偶々

偶々

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-04-07

Copyrighted
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