堕天使の裁き  4

4 サルヴァトーレクリニック

サルヴァトーレクリニックには催眠療法と簡易療法があり、そのほとんどが数回の短期治療で解決する場合が多く、その手腕はクリニックが開業してから瞬く間に広がっていった。しかしフェデリコは半年間に渡ってクリニックを訪れているがあまり効果は感じられず、次第にサルヴァトーレへの不信感を募らせていった。クリニックに入ると受付係が二人おり、微笑を浮かべながらフェデリコに挨拶をした。ここは予約制の為、患者が決められた時間に来るので待たされずに済み、カウンセリングの内容によっては早く終わる場合があるから患者は余計な負担がかからない。受付の一人に診療室へ行くようにと促され、フェデリコはそれに応じ、ゆっくりとした足取りで向かった。ドアを開けるとサルヴァトーレが椅子に座りながら何かをメモしていた。フェデリコが入って来たのを知ると近づいて握手を求め、調子はどうかと訪ねてきた。
> 「相変わらず悪い夢を見ます。体の疲れもあまり抜けていないような気がします」
>
> 「悪い夢というのは例の殺人現場にいたり自分が殺人犯に刺されたことだったね?それに関係しているのは君の仕事のように思えるが」
>
> 「そうですね、ですが辞めるわけにはいきません。これ以外は何も知らないですから」
>
> 「今月は休暇を取ってるということだけど、何か変化はなかったかな?」
>
> 「多少、肉体的にも精神的にも休めました。悪夢は見ますが休暇が良い気分転換になっているようです。でも昨日からまた仕事に復帰しました」
>
> 「仕事をしてみて何か変わったかな?以前とは違う心持ちであるとかエネルギッシュになってきたとか」
>
> 「分かりません。また働けるというのは嬉しいことですが。以前よりはマンネリした気持ちではなく少し晴れ晴れとした気持ちでやれているかもしれません」
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> 「素晴らしい。それは君自身による変化だ。もう一つの問題、悪夢を見るということだが…最近は以前とは異なる夢を見ることはなかったかね?」
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> 「最近見る夢は…僕は以前カトリック教に入っていたのですが教会で懺悔するのを見ました。それは良い夢ではありません、何故ならカトリックを嫌悪しているからです」
>
> 「何故、君はカトリックを嫌悪しているのかな?」
>
> 「ここイタリアでは昔から法王や教皇による支配があり、権力をカトリックのものとし、良くも悪くも人々に影響を与えたからです。おかげで今やイタリア人のほとんどはカトリックに入っていて信仰を大切にしています。それが悪いとは言いませんが…しかし僕にとって宗教は妨げにしかなりません。宗教による支配は人間の支配を意味するからです。人間は自由であるべきだというのが僕の考えです」
>
> 「そうか、君は良い哲学者になれると思うな、どうかね?」
>
> フェデリコは笑みを浮かべた。
> 「哲学は僕には難しいと思います。ところで僕はあなたに不信感を募らせていました。あなたはここイタリアでは素晴らしい精神科医ですから簡易療法ですぐに完治すると思ったからです」
>
> 「フェデリコ、それは困難な患者ではないケースの時だ。君は非常に難しく治療には時間をかけなければならない。私を信じてくれるなら必ず治すと誓う。どうかな?」
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> 「ええ、難しいケースなのは自分でも分かっています。ただこのまま治らないと思うと不安で…ですがあなたを信じます」
>
> 「ありがとう、そう言ってくれて嬉しい。では最後に催眠療法を受けてもらいたいんだがいいかな?」
>
> 「お願いします」
>
> 30分程、催眠療法を受け、フェデリコはクリニックを後にした。時間は19時30分。自宅に帰ろうとしていた時、携帯が鳴り出した。ピータークロフォードからだ。
>
> 「フェデリコだ、ピーターどうした?」
>
> 「フェデリコ、また例の殺人事件が発生した」

堕天使の裁き  4

堕天使の裁き  4

イタリアの街フィレンツェで連続殺人事件が発生した。優れた心理分析官であり捜査官のフェデリコは卓越した頭脳で数々の事件を解決してきたが、「堕天使」と名乗る殺人犯は巧妙な完全犯罪で捜査網を回避し、フェデリコは行き詰まってしまう。所が突然、殺人犯自ら歩み寄り彼に衝撃的な事実を突きつける事になる。その事実とは…。

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-26

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