海と交わる日
ルルの声が、心臓に響く明け方の頃、融合への憧憬、きみと、ルルが、ひとつだったときの話をきいて。肉体交感。起き抜けの吐き気。目をつむると引き攣る指。こわい、という感情が毒みたいに、からだのすみずみまでいきわたって、腐ってゆく。おわりのないピアノ協奏曲を、永遠に弾いているみたいなものだと、きみは云う。ルルは、どこかの星で生きていて、それでいいと思っているのだ。生きているだけでいいよ、という言葉の、絶対性。呼吸をしているだけでえらいね、という誰かの励ましを、一種の嘲りと感じる日だってある。海の使者から、あなたは選ばれたのですと告げられて、海に還ることになって、きみは、さみしそうにしていたけれど、でも、きみのこころのほとんどを占有しているのは、ルル、なので、たぶん、ほんとうはあんまりさみしくはないのだろうと想った。だから、きみが淹れてくれた紅茶を、ぼくははんぶんも残したし、迷いなく捨てた。夜。はんぶんほど欠けた月の夜に、誰もいない海で、ぼくは、ルルに逢ってみたかったと呟いて、でも、その存在を憎んでいることも自覚していて、海辺の砂が、ときどき、切なく鳴いて。泣いた。
海と交わる日