四月のララ
ララの、血液のながれる音だけがきこえるのが、四月の夜だった。果てない、だれかの墓場にて、永遠の愛だけ誓って、砕け散ったひとたち。みずみずしくて、新鮮で、うつくしかった身体の、終着地点にて、ぼくの姉と、姉の恋人が手をつないで、世界を見下ろしていた。水色の空気。幽霊の棲みつくアイスクリームやさんが、チョコミントのアイスしか売らなくなって、近所の中学校からは人体模型が、勝手にうごいて逃げ出したらしい。春のせいねって、アパートのとなりの住人がおもしろそうに言って、その延長で、あなたあの男と別れた方がいいわよとつづけた。ぼくは、はぁ、とだけ答えて、住人が胸に抱えている世界怪獣大図鑑なる本に視線を向けて、すぐに逸らした。あの男、とは、ぼくも早急に縁を切るつもりです。こころのなかで、そう伝えた。やさしいけれど、ひどい男なので。ひどい男なのに、やさしいのだけれども。もうすぐ二十二時だわとつぶやいて、住人はじぶんの部屋にとっとと帰っていった。バタンと、かわいた音を立てて、ドアを閉めた。まごうことなき、春の夜だよ。ララ。
四月のララ