夜を渡る その2

僕と彼女は、僕が大学の一回生の頃、登山サークルの後輩と先輩として出会った。登山サークルのメンバーは全員で3人しかおらず、僕と彼女の距離が縮むのは早かった。二回生になるころには既に恋仲となっていた。そして三回生へと上がるとき、僕の方から彼女に別れを告げた。その後彼女は上京し就職したと聞いた。しかしあれから五年経った今、僕の目の前にすっかり大人の女性となった華子さんがいる。
「綺麗に・・・なられたようで。」
綺麗になりましたね、と言うつもりが、思わず他人行儀な言い方となってしまった。しかしいずれにせよ、僕の本心からでた言葉であることに間違いはなかった。
「えっ、ありがとうございます。尚人さんは、相変わらずですね。」
そう言うと彼女は照れて笑った。その笑顔は学生の頃と全く同じだった。五年の月日を以てしても、彼女はあの頃のまま綺麗だった。僕はかつて憧れたその笑顔に吸い寄せられるように、今一番聞きたいことを口にした。
「華子さん、あなたは」
「はい!しょうゆラーメンメンマ大盛り二つね」
僕の声は店主の声でかき消され、僕と華子さんの前にラーメンが置かれる。華子さんは僕が何か言いかけたことなど全く気づいていないようだ。
「さ、とりあえず食べましょうか。」
と僕に割り箸を勧める。いや、これでよかったのかもしれない。僕が今聞こうとしたことは、きっとお互いにとって良くないことだ。それに再会して真っ先に問うようなことでもない。
「そうですね。食べましょう。」
僕は割り箸を受け取り、ラーメンを食べた。


深夜の食事を終え、僕たちは橋の上にいた。橋の下には線路が二本通っていて、そこを時々貨物列車や夜汽車が走って行った。それを二人で見ていると、まるで学生の頃に戻ったようだった。しかしあの頃から五年、月日は着実に流れている。僕はそのことを自分に言い聞かせた。
「いつこちらに戻ってきたんですか?」
と僕は聞いた。おそらく休みを取って友人と

夜を渡る その2

夜を渡る その2

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-04-12

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