朝焼け
やわらかな、花の感触、ゆびが、一瞬、花びらに吸いついて。朝。あの、みずうみの、向こうがわ、きみが渡った、知らない街が、赤く染まる。かぎりなく、とうめいだった、湖面にうつるのは、ぼくのかお。ゆがんで、きみのかお。黒装束の、朝のバケモノが、両手をあわせて祈る、四時のこと。もう、だれも、助からないのねとささやく、バケモノの声が、ぼくのからだを、骨ごと揺さぶって、こわい、とか、かなしい、とか、そういう負の感情が、洗濯機みたいに、ぐるぐると渦巻く、から、なんだか、いつものコーヒーもおいしくないのだ。憂い、というものにじくじくと蝕まれて、体温を失ってゆく。足先から。
いま、ぼくは、テレビを観ていなくてよかった。
あの、低く、太い音を鳴らして流れる、ニュース速報。白字の。あれを観ただけで、きっと、ぼくの心臓は、くだけるよ。きみ。どうか、清らかな酸素をとりこんで、いて。
朝焼け