地球温暖化


 今日、全国最高気温を記録したところはここらしい。
 しかも、歴代第一位らしいぜ。
 地球温暖化にも程があるよなぁ。
 
「それに比べて、ここは涼しくていいよなぁ」
 冷房が効いているわけでも何でもないが、現在、地球上で最も涼しい場所はこの部屋だろう。そんな気もしてくるぐらいだ。まぁ尤も、あながち間違いではないのだが……。
 
 それにしても、数値化されても身を持って思い知らないと実感が湧かないというのは、どうやら本当らしい。別に、実感が湧かなくたって困らないけど。だって、外が地球温暖化だろうが何だろうが、この空間には関係ないのだから。
 
「ぼくが外に出たら溶けてしまうね」
 お前、未だにそんなこと信じ込んでんのか。病気だな。
 そう言いたい衝動を抑える。コイツの妄言は今に始まったことではないし、いちいち指摘していたらキリがない。ある意味、「病気」だからこんなところにいるのかもしれないし。当人が正しいと思っているなら、第三者がどうこう言ってもしょうがない。どうせ自分の言葉が虚言か真実かだなんて分かろうが分からまいが、訪れる結末にさほど差はないのだし。
 差があるとしたら、孤独を感じるか否かの感情論レベルだし。
 
「じゃあ俺は焦げて死んじまうな」
「死ぬなんて物騒な言葉使っちゃダメだよ。ほら、きみの番だよ」
「ちょっと待てよ、考えてんだから」
 ボードに並べられた白と黒の点を見つめる。割合としては、白が六割、黒が四割ぐらい。改めて、こうやって盤を眺めてみると、俺も最初に比べて成長したもんだなぁ。一番最初なんて……思い出すだけで虚しくなってくる。まぁでも、娯楽がオセロしかない奴が相手でも、こう毎日やってると徐々に追い付くのも当たり前の話か。
 
 俺の駒である黒石を、ある一点に置く。
 瞬間、奴が笑った。……しまった。この一手は間違えている。考えごとをしていたばっかりに、なんて格好悪い……。
「はい、もうきみは置けないからぼくの勝ち」
「くそ、これで……何勝何敗だ?」
「ぼくが15903勝4敗だね」
「いちいち覚えてんのか、暇人だな……」
 しかし、よく考えてみれば、オセロにしか頭を使っていないのだから五桁+一桁分の数字の羅列ぐらい覚えていて普通か。考えごとばかりの俺と違って、コイツはオセロにしか興味がないのだから。
 外なんてどーでもいいのだ、この男にとっては。
 
「今度さぁ、別のゲーム買ってきてよ。きみ、暇でしょ?」
「珍しいな、お前がオセロに飽きるなんて」
「飽きたんじゃなくて、賭け事をしたくなったんだ」
「俺と? 賭けるもんなんて何もねぇよ」
「きみが得意なゲームでいい。ぼくがルール知らなくてもいい。だから、もしそれでぼくが勝ったらさ、外に出してよ。それがダメなら、見せてくれるだけでもいい」
 否、こんな男でも、ちょっとした知識欲はあるらしい。いや、ただの興味心か?
 どっちにしろ、それは無理な頼みだった。
 
「世は地球温暖化だ。熱気に触れた眼が焼けちまう」
「太陽を見たように? きみでも面白い冗談が言えるんだね」
 とりあえず、もう一戦しようか。
 盤上に並べられていた黒と白をばらばらとベッドの上に零す。黒石だけが、汚れのように目立つ。
 
 まだやんのかよ。これでもう12回目だぞ。飽きねぇなぁ。
 
 それにしても、オセロに使う頭あんなら、自分の妄言にも気づかないもんかねぇ。
 外に出りゃ、五万度の高熱にやられて目ん玉どころか肌が爛れて死んじまうっつーのに、ぼく「が」外に出れば溶けちまうなんて。
 妄言にも程があんだろうなぁ。
 
 ったく、それにしても、地球温暖化早く終わんねぇかなぁ。
 みんな死んじまってっけど。
 

地球温暖化

地球温暖化

ちょっと怖い、をテーマに、その2。地球温暖化の話。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-25

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