「敬愛」

じゅり


 先輩の書く小説は素晴らしい。デビュー作は瞬く間に映画化され、大ヒットを記録。続く別作品も売れに売れた。だが私は知っている。こんなにも売れっ子で華々しい功績のある先輩が実はすごく内向的で冴えないこと。「仕事ができない自分がすごく嫌だ」「何者でもなかった時の方が楽しかった」「相変わらず憂鬱な日々だ」先輩はいつもこういうようなことばかり呟いている。先輩は昔から表に立つようなタイプではなかった。そして今でも孤独が小説家としてあるべき姿であり、自分のスタンスであると思っているようだ。
 先輩は常に家に篭って担当兼彼女である私とほとんど会おうともしない。先輩の書く小説は思春期の生きづらさや人間の生きる価値について言及するものが多かった。だから私も篭って書く方が小説のテーマ的にも合っているんだろう、と特にそれについて咎めることはしなかった。いつも出来上がって提出される作品は本当に心に響く作品だったし。
 それゆえ私は気づかなかった。いや気づいていたけれど知らないふりをした。先輩が限界を迎えていたことに。病室で眠る先輩の頬をそっと撫でる。目を覚ました先輩を抱きしめた後私はこう言った。
 「無理しないでください。私先輩の小説大好きなんです。」
 先輩は嬉しいような悲しいような顔を浮かべた。

「敬愛」

その人が創り出す何かが好きなのか、それともその人自身が好きなのかってすごく難しい所だと思うんですよね。

「敬愛」

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-03-30

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