惜別

 朦朧として、意識、ぼんやりと白く霞んで、ともなう吐き気と、(うた)。鼓膜に、いつまでも纏わりついている、踏切の音。夕暮れ。だれもいなかった、線路。きみがいた、街。ひとりきりだった、秘密基地。ときどき、聴こえるんだ、星の悲鳴が。コンビニで、やきそばパンでも、メロンパンでもなく、クロワッサンを買って、むしゃむしゃと食べながら、しろくまのせなかに、耳をあてる。夜の、公園のベンチで、しろくまの体温に身をゆだねているあいだに、ちょっとでもいいから、せかいがやさしくあれと思う、ささやかな祈り。
 黒い箱。
 白百合の花。
 こわいくらい青い空。
 きみの、つめたいからだ。

惜別

惜別

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-03-29

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