神さまなんていないと言わないで

 むなしいから、じぶんをころすこと。心臓に、ナイフを突き立てる、なんて即死性のあることは、しないで、じわじわとむしばんでゆく、感じがいい。いや、ほんとうは、くるしいし、こわいので、瞬きするあいだに、すべてがおわればいいのだけれど。指から、足の先から、ちょっとずつ毒がまわっていくような、ゆるやかなものは、時間がかかる分だけ、きっと、未練、などというものが募るはずだ。はじめはなかったはずなのに、そういえば、なんて、むかしのことを思い出して、未練をつくりあげていくかもしれない。なんだか、そんな想像すらも、むなしいね。ぼくは、いつも、きみだけの肺になりたい。臓器のなかならば、迷いなく。
 この世は、めまぐるしいはやさで、進化して、劣化して、あたらしいものがうまれて、ふるいものがしんで、でも、一過性のものはすぐに色褪せて、むかしからずっとあるものがいまもたいせつにされたりしている。きみと、きみとだけは、近い将来、太陽系のどこかの惑星で、ふたりで暮らせたらいいと想うのに、まだ、世界は、そういう次元まで到達していないのだと、ときどき、ぼくは嘆く。ロケットを制作できる技術が、ぼくにあったのならば、それは即時に実行されていたであろう、に。テレビの野球中継を観ながら、ポテトチップを食べている、きみの横顔をそっと盗み見て、ただ漠然と、宇宙に行きたいと思う。漠然とし過ぎていて、ぼんやりしてくる。ねむいのかもしれない。テレビに観客席の、両手をあわせて祈っているひとが映って、ぼくもひそかに、こころのなかで、祈る。ぼくにとって、愛、とは。きみの一部になること、として。

神さまなんていないと言わないで

神さまなんていないと言わないで

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-03-28

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