ねこさま

 
 おうおう、随分と愛くるしいねこ様がいるではないか。よーしよし、こっちおいでー。
 ちょいちょいと手首で招き寄せ、そこではたと気づく。
 こいつは……私が夢にまで見た、理想のねこにそっくりじゃないか!!
 傍若無人ぶりをこれぞとばかりにアピールする、のしのしという歩き方! ふてぶてしいその態度! ふんぞり返った不細工な顔! 何よりたぷたぷと揺れるそのお腹!
 ああ、ねこという生き物はなぜこんなにも愛くるしいのか!
 夢にまで見た、理想のねこ(本日、二回目)との遭遇を遂に果たし、思わずわなわなと唇が震える。ぼてぼてと近付いてきたそいつに手を伸ばし、熱い抱擁を交わす。ああ、柔らかい! 温かい! 気持ちいい! しかも抵抗しない! これぞ本当の借りてきた猫のようだ!
 だらんと垂れた手足とこのお腹のギャップがなんともたまりませんなぁ! たゆんたゆんとしたそのお肉を摘んだり、持ち上げたり、撫でたりして、暫しの間、癒される。
 はぁ……もう溜息しか出ない。なんという神がかったバランス。私を不審気に睨むこのじと目も、最早チャームポイントにしか見えない!
 もういい! 彼氏なんていらん! 私にはこいつだけで十分なんだ! 寧ろ、よしんば彼氏ができたとしても、道端でこいつみたいな理想のねこに出会った途端、彼氏の存在なんて頭からすっぽ抜けて、別れを切り出されることも想像に難くない。
 そこではっとする。私の中での優先順位は人<ねこなのか?
 いやいや、そういうわけじゃない。そもそも人とねこを同じ枠の中で比べちゃいけない。だから順位がつけられるものじゃないんだ。ねこがいれば人とのコミュニケーション能力なんていらないね、はっ、とか、冗談でも言えたものではない。
 でも、冬でもぬくぬくとまるで暖房のように温かいねこを抱きながら、睡眠にも等しい幸福感を味わっている自分に気づき、このままでは本当にねこと結婚しかねないと真面目に危機感を覚えた、今日この頃であった。

ねこさま

ねこさま

ねこって、かわいい。ちょっと太ってるぐらいが、ちょうどいい。 小説か? これ。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-25

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted