静寂の花火

福田


「今から補聴器を外すから」

と、彼は私に断りました。それは、花火大会が始まる一分前でした。
私は頷いて、彼が両耳から補聴器を外すのを見届けました。

そうしたのは、過去の私。

私という生き物は元来、人の生き死にについて興味がありました。だから、幼なじみで、何でも言う事を聞く彼は、非常に適した実験体でした。
そう。私が、彼を、車の前に突き飛ばしました。そして、彼は見事に轢かれました。
しかし、彼は生きていました。音と引き換えに生きていました。
あの時、彼は私を見ていたはずでした。
しかし、彼は私を責めることはありません。こうして、私と花火大会に来る始末です。

どかん、どかん、と、空で爆発する火薬を、彼はぼんやり眺めています。警戒もせずに見ています。
彼の左耳には、傷跡があります。それは、私がヤケになってつけた爪痕です。

「静寂の花火は美しいかい?」

私の質問も、彼の静寂には届かないのです。
私の全ては何もかも。

嗚呼、今夜は、花火の振動がやけに響く夜なのです。

どかん、どかん。

静寂の花火

読んでいただき感謝です。

静寂の花火

詩的な掌編。耳が聞こえない幼なじみと花火大会に行く話。読んでいただければ幸いです。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-03-25

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