二人の少年

三人称練習のため書いています。指摘お願いします。

西暦〇〇年国同士の戦争が勃発していた。このラスタール王国もその一つ。戦争により物価は上昇その影響で国民は飢えに苦しみ一部の金持ちしか満足に食をすることができない。

 ラスタール王国の首都レブナントは、城を中心として円形状に家が建っている。街の情景と合わせる用に茶色のレンガで作られた家々、その一つからは少年の悲しみの声が響いた。

「お母さん!目を覚ましてよ!」

 黒髪で青色の瞳を持つ中世的な顔の少年はベットに寝たきりの衰弱した母親の手を握り、必死に声をかけた。そんな我が子を虚な目で見守る母親は心配を掛けまいと、口を微笑まさせる。その表情が逆に少年を不安にさせてしまう。その不安が当たるかのように魂の灯火が消えていくかのようなーー弱々しい声で母親は告げた。

「私が死んでも…頑張って生きて行くのよ…サクヤ愛してるわ…。」

「お母さん…僕を置いてかないでよ!」

 目を閉じ冷たくなった母親の身体を何度も譲り必死に呼びかけたが、声は返って来なかった。

 首都レブナントは目を奪われるような綺麗な建物が立ち並んでいるが、都市の一部にはその風景を見出すようなボロボロな家が立ち並ぶ「貧民街」と呼ばれている場所がある。この貧民街の一角でも少年の悲しみの声が響いていた。

 酒で顔を赤くてた立年の男と女は、黒髪で赤い瞳を持つ顔つきが整った少年に罵声を浴びせていた。

「二度と戻ってくるんじゃねえぞ。」

「あんたなんか私の子じゃないわ。」

「お父さん…お母さん…」

 少年は震える声で呼び、手を伸ばした。男は突き放すように躊躇なく少年を蹴る。

「ぐっ…」

 吹っ飛ばされ少年は苦痛で表情を歪めるが、目の前にいる父親と母親に対し懇願するような眼差しを向ける。

「お父さん。」

「うるせぇ。二度と立ち上がれないようにしてやろうか!さっさと失せろ。」

 そう言い放ち少年を家の外に置き去りにしたまま扉を閉めた。少年は何度も扉を叩き声を上げるが扉が開くことはなかった。

 涙を流しながら少年は街灯のない暗闇を歩き出した。途中何度も止まり、後ろを振り返るが少年を呼び止める声はなかった。

 大通りには客を求め屋台が道に沿って並んでいる。屋台の準備をしている男に一人の少年が頭を下げて頼み込んでいた。

「お願いします。僕を働かせて下さい。」

「うちはお前さんみたいなひ弱なガキを雇うほど儲かってないんだよ。さあ、帰った帰った。邪魔だからどきな。」

「はぁ、また今日もダメか。」

 少年はため息を吐きながら重い足取りで家へと向かって行く。そんな少年を気にもせず男は通る人々に対して声を上げながら接客を続けていた。

「まてー!このクソガキ!!」

 怒鳴り声の方向に通行人は目を向けるが見慣れた風景に興味を失ったように歩き出して行く。走って逃げる少年の右手には真っ赤な林檎が一つ乗っていた。

「危なかった、危なかった、まさかバレるとはな。にしても林檎1つで怒るなよ。」

 逃げ切った少年は愚痴を言いながら林檎に噛み付いた。

「うまい!真っ赤な林檎を狙った甲斐があったな。」

 少年は気分をよくし、林檎を齧りながら上の空で歩いていた。

「うわぁ。」

「痛えな気をつけろよ。」

 二人の少年は顔を見合わせる。

「大丈夫か?」

 倒れている青色の瞳の少年に手を差し伸べる。赤色の瞳を持つ少年の態度が変わったことに少年は少し驚いた。

「ありがとう。」

 少年は差し伸べられた手を掴み立ち上がり、何事もなかったかのように歩き出した。

「おい、待て。」

 少年は声を掛けずに居られなかった。目の前にいる青色の瞳を持つ少年は痩せ細っていたからだ。呼び止められた少年は不思議そうに声を掛けてきた少年を見つめた。

「お前腹減ってるだろ。これやるよ。」

 少年は手に持っていた食べかけの林檎を差しだす。思いもしなかった事に少年は目を丸くした。

「ありがとう。」

 お礼を言い受け取ると少年は小さな口にも関わらず林檎を一口で食べてしまう。そんな姿を見てもう一人の少年は考え込む様な顔をしていた。

「美味しかったよ。ありがとう。」

「なぁ、名前なんて言うんだ?」

 質問の意図がわからず少年はキョトンとするが、すぐに自分の名前を告げた。

「僕の名前はサクヤだよ。君は?」

  サクヤは思わず聞き返えしてしまう。

「俺はレイル。よければ俺の家に来いよ。食べ物もっと渡してやるよ。」

「ふぇ?」

 サクヤは驚き口が空いたまま固まってしまう。そんな間抜けな顔を見てレイルは思わず笑ってしまった。

「アハハハ。」

  サクヤは顔を赤くしながら笑い続けるレイルに声を上げた。

「なんだよ!」

「悪い悪い、あまりにも間抜けな顔をしてたからな。」

 未だに笑い続けるレイルを見て怒る気力を無くしたサクヤはため息をついた。

「で、どするんだ?」

「いいの?」

「おう。」

 笑顔で答えるレイルにサクヤは少し面を食らう。そしてレイルの後ろについて歩いて行くのだった。見慣れない光景にサクヤは何度も目を奪われていた。でこぼこで草の生い茂っている道とは言えない場所を歩いていると突然レイルが立ち止まる。

「ここが俺が住んでいる家だ。」

 レイルが指を刺す方向を見ると古く今にも崩れて来そうな木造建の一軒家が立っていた。その周りには家を囲むように草木が生い茂っていた。少し不気味な光景にサクヤは少しレイルとの距離を縮める。

 家の中に入るとそこは外の光景とは裏腹だった。目の前の部屋には大きなベットが置いてあり、床には綺麗な絨毯が引いてあり、サクヤが想像した場所とはかけ離れていた。

「凄い…」

 気がつくとサクヤの口からは賞賛の言葉が漏れていた。

「そうだろう。」

 レイルは顔をニヤニヤしながらサクヤの驚いた顔を見ていた。

「それにしてもレイルはどうやって暮らして来たの?」

「まあ、ちょっとなそれよりこいつ食うか。」

 話を逸らしたレイルに疑問を抱きながらも、レイルから渡された食べ物に意識が行ってしまう。戦争になってない頃でも余り食べれなかった肉が目の前にあるからだ。サクヤはかぶりつくように食べた。そんなサクヤの姿を見るレイルはまるで自分の過去を見ているような悲しさを感じた。

「なぁ、サクヤは…いや何でもない。」

 レイル悲しみのこもった言葉は無邪気に食事をするサクヤの音に消えていった。

「じゃあ俺は行ってくるから大人しく待っとけよ。」

「ええ、僕も一緒に行くよ。」

 サクヤの言葉を拒否するようにレイルは外へ走って出て行ってしまった。二人は一緒に暮らし始めだが、レイルはサクヤを置いていつも外に出かけているのだ。

「頼ってくれてもいいのに。」

 サクヤは不満の声を漏らす。

「よし、今日も頑張ろう。」

 サクヤは気持ちを切り替えるため声を出す。これから家の周りに生えている草を抜いて行くからだ。サクヤはレイルが外に出ている間特にやることが無いので家の周りの草を抜くことにしているのだ。目の前に広がる草に心が折れそうになるが今日の夕飯の事を考え気分を上げて行く。

「にしても、レイルはどうやって食料を手に入れてるんだろう。」

 ふと疑問に思っていたことを声に出して呟いた。レイルは必ず食料を持って帰ってくるからだ。何かに気づいた様にハッとするが拒否する様に首を振りすぐにまた草を抜いて行く。

 ハァハァハァ…

 レイルは疲れ切った体を整えるように空気を吸ってた。

「ふぅ。今日も何とか成功したな。」

 少し休憩してから再び歩き出すが、目の前にある光景に体が固まってしまう。そう、巻いたと思ってた店の主人が嘲笑うように目の前に立っていたのだ。

「逃げ切れると思ってたのか。」

 その声は身体を硬直させるほどの鋭く怒りのこもった声だった。レイルはすかさず走り出すがすぐに追いつかれ吹き飛ばされる。

「グアァーー」

 吹っ飛ばされ地面に体を打ちつけたレイルは痛みにより声を荒げた。そんな姿を見て男は顔を満足げに笑う。

  「ハハハ、そんくらいでくたばんなよ。」

 そう言い放ちレイルのもとへと近づいて行く。痛みで動けないレイルの首を片手で掴み持ち上げ、そして力を込めたパンチを腹に叩き込んだ。レイルの青白くなった表情を見た男は興味を失ったように首から手を離す。崩れ落ちて行くレイルに目を向けずに去って行った。

 レイルは殴られた衝撃で腹の中に入れてた食べ物を吐き出してしまった。そして気を失ってしまう。

「大丈夫か?君」

 シルクハットを被り高級な服装を見に纏う若い男性は、傷を負って道端に倒れている少年に優しく声をかける。反応のない少年に男性は頬をニヤつかせていた。


「遅いなぁ。何してるんだよー。」

 草むしりを終え、夕食の準備をしていたサクヤは帰ってこないレイルを愚痴っていた。それから数時間経ち窓からは月明かりが差し込んでいた。心配になりサクヤは家の外へと出てレイルを探し始めた。夜の暗闇とレイルの心配で身体は震えるが自分自身を殴り落ち着かさせる。

「レイルーどこー?」

 静かな暗闇ににサクヤの悲しげな声が響き渡っていた。

 レイルはハッとし目を覚ました。辺りを見渡すと、レイルはふかふかのベットに寝かされており、壁には高そうな絵が飾ってある。窓を見ると太陽の光が差し込んでいた。レイルは居ても立っても居られなくなりすぐに立ち上がろうとするが、痛みによって動けなくなってしまう。そこに見知らぬ男性が部屋に入って来た。

「目が覚めたみたいだね。おっと、安心して何も危害は加えないよ。」

 レイルの警戒を読み取った男性は安心させるように手を上げた。そんな姿を見てレイルは息を吐き出す。

「あんたが助けてくれたのか?」

「そうだよ。私はアレス。君は?」

 失礼な言葉ば使いも気にせずにアレスは気軽にレイルに話しかけた。

「俺はレイル。助けてくれてありがとう。でも俺は行かないといけない場所がある。」

 レイルは恥ずかしげにお礼を言うと、痛みが消えてない体を無理やり動かし始めた。そんな姿を見てアレス止めるように口を開く。

「私が手伝うよ。君の身体は無理だろう。私なら君の役に立てるはずだよ。」

 レイルは驚きのあまり固まってしまう。そんな表情を笑いもせずに真剣な眼差しでレイルを見るアレスにレイルは話し始めた。

「なるほど、私が迎えにいってくるよ君は大人しく待っといてくれ。」

 そう言い残しアレスは扉から出ていった。その姿を見て張り付いた緊張感が解けたようにレイルは再び眠りにつく。

 その頃サクヤはレイルを探し道を歩き回っていた。夜な夜な探し回ったせいで身体は既に限界を超えており歩くのがやっとの状態だ。それなのにも関わらずサクヤは歩き続ける。すれ違う人々は心配そうに見るが、声をかけようとする人はいない。今にも倒れそうな時後ろから名前を呼ぶ声が聞こえた。

「もしかして、君はサクヤという名前かい?」

「な、何で僕のことを?」

  警戒を抱くサクヤにアレスはことの顛末を話し始めた。レイルの安心を知ったサクヤは倒れ込み眠ってしまった。そんなサクヤをアレスは優しく背負い運んで行った。

 レイルは目が覚めると横には幸せそうにサクヤが眠っていた。そんな姿をおとなしく見守っていると突然サクヤが目を覚ます。

「おはようサクヤ。」

「レイル…。」

 サクヤは泣きながらレイルに抱きついた。レイルも涙を流しながらサクヤを抱きしめる。2人は長い間涙を流し続けた。

 落ち着きを取り戻した2人はことの経緯について話し合っていた。

「もう無茶はしないでよ、本当に居なくなっちゃって寂しかったんだから!」

 サクヤは怒りながらも嬉しそうに話した。レイルも真剣に聞いているが、表現には少し微笑みが見える。

「もう心配をかけるような事はしない。だから感心して。」

「わかった。」

 真剣な顔つきので話すレイルを見てサクヤはこれ以上言う事はしなかった。

「やっぱりおとなしく待ってたほうが良かったんだよ。」

「サクヤだって俺の意見に賛成したじゃないか。」

「渋々ね。」

 2人が言い争いをしていると丁度奥の部屋からアレスが出て来る。

「あ、アレスさん。」

 サクヤの声に気付いたアレスは2人の元気の姿を見て安心の表情を浮かべる。

「もう動けるまで回復したみたいだね。立って話すのも何だから2人とも私の部屋で話そう。」

 2人は頷きアレスの後ろについて行きアレスの部屋に入る。部屋の中はとて広く天井にはシャンデリアそして部屋の真ん中には大理石のテーブルがに置いてありそれを囲むように椅子が置いてある。

「君たちは座ってて。」

 そう言いアレスは奥の部屋へと進んで行く。

「凄い広い部屋なのに物があまり置いてないよね。」

「だよな、俺たちが寝ていた部屋の方があったよな。」

  そう話しているうちにアレスがお茶を持ってきて2人の前に置いた。

「あの、こんな部屋がいっぱいある家なのに何で使用人が居ないんですか?」

「俺も気になってたんだ。アレスを探しているときに誰も見かけなかったぞ。」

「雇っていたんだけど皆辞めちゃったんだよ。良ければ君たちが使用人になってくれないかな?そうして貰えると私も助かるんだけどね。」

  2人は驚き手に持ってたお茶入りのカップを落としそうになるが何とか立て直す。

「是非お願いします。」

「俺もお願いします。」

 サクヤに続くようにレイルも頼み込む。それを見たアレスは喜んで迎え入れた。そこから2人は鬼のような特訓をアレスと繰り返している。

「うあぁー疲れたーーー」

「僕はそうでもないけどね。」

 レイルはベットの枕に顔を伏せながら愚痴を言っている。それを見たサクヤは笑いながらタキシードを綺麗に畳んでいた。

「まあ、レイルは言葉遣いも変えないといけないから大変だよね。」

「そうなんだよな。そのおかげで俺はいつも疲れる。」

「にしても見ず知らずの僕たちを雇うなんてね。変わった人だよねアレスさんは。」

「だよな。」

  2人は人通り盛り上がってから眠りに落ちた。

「ああ、もう少し我慢しようと思ってたけどもう限界だ…。」

 明かりの灯ってない部屋で椅子に座っているアレスは不気味に笑い声を上げる。その表情は人じゃない化け物の様に歪んでいた。


 レイルはいつも通りの時間に起きサクヤを起こそうとベットから出てサクヤを起こそうとするが、そこにはサクヤは居なかった。慌てて周りを見渡すがどこにも居なかった。レイルは急いでアレスが居る部屋と向かう。

「どうしたんだい?」

 髪は乱れており服装もしわくちゃな状態で息を切らせながら部屋へ入ってくるレイルの姿を見ても顔色をひとつも変えずに静かにお茶を飲みながら尋ねた。

「何かあったのかい?」

「サ、サクヤが居ないんです。」

 再びお茶を飲みゆっくりと一口飲みレイルの言葉に答える。

「そうか、私も探しておこう。それと、私は今から外に出かけるから留守を頼むよ。」

  悠長な表情をするアレスに苛立ちを覚えながら、部屋を出た。そして再びサクヤを探すが、どの部屋を探しても見つからず苛立ちを浅きれなくなったレイルは壁を殴る。

「クソッ!」

 拳は少し赤く染まっていた。

「ここは…」

 サクヤは目を覚ますと見知らぬ部屋にいた。周りには鎖がいくつも壁に固定されており床には地の痕が薄らと残っている。そしてサクヤは両手の違和感に気づく。そう、両手は鎖で拘束されているのだ。何とか抜け出そうと手を左右に振るが鎖が音を立てて鳴るだけだった。

「どうして…あなたが…」

 サクヤは信じられなかった。目の前の扉からアレスが入って来たのだ。そんな表情を嘲笑う様に不気味な声で答える。

「凄くいい表情だよサクヤ、私は人の表情を見るのが好きなんだ。人間には様々な表情があるだろ?その表情はとても美しい。でも限界があるんだ…でも人の表情を最大限に出す方法があるんだよ。それはねーーー」

「ぐぁあああああーーーーー」

 絶叫が部屋全体に響き渡るが誰も助けに来る人など居ない、聞こえるはずがないのだこの部屋は地下に作られているのだから。泣き叫ぶサクヤを見ながらアレスは再び殴りつけていく。血が手につくのも気にはせずただひたすら殴り、サクヤの表情を満足げにアレスは眺めていた。

 レイルはアレスの部屋に行き何かないか探していた。サクヤの事を伝えた時、淡々と話していたからレイルは怪しんだのだ。そして一冊の本を見つける。

「これはーーー」

 ○月○日

 今日も使用人と一緒に遊んでいたらお母様とお父様に怒られた。その後医者に連れて行かれたが特に悪いところはなかった。


 ○月○日

 今日は家族でご飯を食べたのに誰1人も喋らない。


 ○月○日

 気がつくと家の中には誰1人居なくなっていた。

  ○月○日

 最近よく血を吐く薬でなんとか抑え込んでいるが…。


 ○月○日
 二人の少年を拾った。私を楽しまさせくれるだろうか。



「これは…アレスの日記か?この少年は俺たちのことか?」

 静かに本を閉じ元の場所へと戻した。その時、音を立てて地下への通路が開かれる。レイルは咄嗟に椅子の下に隠れた。中から出てくる人物に驚きの声をあげそうになり咄嗟に口を手で覆い隠す。部屋から出て行くのを確認してから大きく息をする。

「やっぱりアレスが…」

 アレスが出て来た付近を探していると長方形の切り込みを発見する。レイルは爪を引っ掛け持ち上げるとそこには青と赤のボタンがあった。青を押しても反応はない。すかさず赤を押すと音を立てて床が開いた。下を見ると階段が続いており壁には暗闇を灯すランプが付けられている。


 ランプを灯しながらレイルは急いで降りていく。階段を降り切ると真っ直ぐな通路があり奥には扉がある。鍵はかかって無く開けて進むと驚きの光景が目に入り時間が止まったかの様にレイルは固まってしまう。

「サ…サクヤ…」

 変わり果てたサクヤを見てレイルは体を震わせた。両手は鎖で拘束されており、顔はあざだらけで腫れており、服から出てる手足にも傷がいくつもあり床には飛び散った血が凝固していた。レイルの声に気がついたサクヤは殴られた晴れた目を薄らと開け涙を流しながら枯れた声で名前を呼ぶ。

「レ…イル…」

 サクヤの顔は腫れているが、レイルには安堵の表情だと分かった。レイルは急いで駆け寄りサクヤの手から鎖を外しゆっくりと寝かせる。

「ごめんな、サクヤ。」

 レイルは泣きながら謝る。

「素晴らしい!」

 2人の後ろには歪んだ笑顔をしているアレスが2人を眺めていた。レイルは今まで感じたこともない感情に支配され叫びながらアレスに殴りかかる。

「うあぁぁぁーーーーー」

 子供が大人に勝てるはずなくレイルはすぐに気絶させられた。

「素晴らしい友情だ…。」

 歪んだ顔でアレスは気絶しているレイルに拍手をしながら称賛の声をかけた。その後ゆっくりとレイルの元に近づき壁についている古びた鎖をつけて行く。そして目覚めるまでじっと床に座り見続けていた。まるで芸術作品を眺める様に。

 レイルはハッとして目覚めた。横には悲惨な姿のサクヤがいる。怒りが湧き上がり目の前にいるアレスに殴り掛かろうとするが、壁に固定された手枷によって阻まれる。

「おはよう。レイル。」

 何食わぬ顔付きで話しかけてきたアレスにさらに怒りが込み上げたレイルは手枷を無理やり引き剥がそうとする。手からは血が流れるが、叫び声を上げ手に強く力を入れる。すると「パキ」と音がした後手につけられていた後鎖が壊れた。手からは多量に血が流れ落ち今にも倒れそうになるが、力を込めてアレスを鎖で殴りまくる。

「素晴らしい表情だ君になら…私は…」

 アレスは最高の笑みを浮かべた。倒れ抵抗することなく殴られていき床には血溜まりが広がって行った。

 今にも倒れそうにふらふらになりながらもレイルはサクヤを背負い地上へと向かって行く。

「外だよサクヤ…。」

「………」

 レイルは倒れ込みサクヤも一緒に崩れ落ちて行く。レイルは冷たくなったサクヤの手を握ぎしめ、覚めることのない眠りに落ちていった。

二人の少年

二人の少年

  • 小説
  • 短編
  • ホラー
  • 青年向け
更新日
登録日
2021-03-25

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