魔法のおにぎり

毎日たった2つのおにぎりを届ける。でもそれが今の生き甲斐。

せっかくの休日は2日間ともに雨だった。
といっても私には関係ない。
雨が降ろうが槍が降ろうが
とにかくとにかく関係ない。
雨宮福。32歳。先月無職となりました。
原因は未知のウイルス感染症。
勤め先の飲食店はあっという間に倒産した。
それでも、店長は凄く頑張ってくれたんだ。
そして今は実家暮らし。
でも料理ぐらいは自分でやります。
やっぱり料理が好きだから。
まずは、冷蔵庫をチェック。

ちょっとくたびれたキャベツがあるな。お、
ピザ用チーズはどっさりある。
確か2人とも朝がすっごく軽かったから
お昼はお腹がペコペコなはず。
よし、ならばお好み焼きだ。
マヨネーズ無しでいこう。
小麦粉はギリギリ足りる。
鰹節はこれもどっさり。
もし残したら私が食べればいいから。
料理をしてると心が紛れる。
というか、なんかホッとするのだ。

そんなある日母が言った。
「福、おつかい行ってきて。」
「いいよ。どこまで?」
柳河(やなかわ)さんのお店まで。あと、
空君にお土産ね。」
「お土産って?」
「空君の元気の出るもの!
あんたなら分かるでしょ。」

空とは幼なじみだから、
元気の出るものなんてすぐに
思いつく。
あいつの好物のおにぎりだ。
とりあえず、昆布の佃煮を
具にするか。

「おばさん、こんにちは。」
「あら福ちゃん、
いらっしゃい。いつもの
草餅3つでいいかしら?」
「えへへ。お願いします。
あ、あとこれ空に。
あいつがめちゃくちゃ元気になる
魔法のおにぎりです。」
「あら~ありがとう!
あの子絶対喜ぶわ。あ、福ちゃん、」
「はい?」
「こんな事、図々しいって
分かってるんだけど、お願いがあるの。
福ちゃんの手作りおにぎり、時々
空に届けてほしいの。」
「へ?」
「あ、もちろん材料費は払うから!
あの子、最近何も食べないの。
だから心配で。でも昔から、
必ずあなたのおにぎりを食べると
いつも笑顔になるでしょう?
お願い!」
「わ、分かりました。」
「ありがとう!」

要するにおばさんは、
空を元気にしたいんだろうな。
よし!そうとなれば、
思いっきり元気になるおにぎりを
作ってみますか!

それから私は、ほぼ毎日
空におにぎりを届け続けた。
それが今の私にできる
たったひとつの仕事だから。

そして、それは今でも続いてる。
もちろん、会う事は無いけれど
たった2つのおにぎりが、
彼の笑顔になるようにと
願いを込めて握ってる。

魔法のおにぎり

魔法のおにぎり

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-03-23

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