向野兄妹の不思議な日常n-1
こたつほしい。
目が覚めると、カーテンの隙間からは日がさしていた。机の上に置いた置時計に目をやると時刻はもう昼になっていた。
健助は毛布をかぶり直し、目を閉じる。それでも、カーテンの隙間からさす光をまぶたの裏に感じる。数回寝返りを打った後、これ以上は眠れないと判断した。健介は、しばらく布団の上でゴロゴロした後、ゆっくりと起き上った。
昨晩、床に脱ぎ捨てたフリースをパジャマの上からはおり、部屋を出る。廊下はひんやりしており歩くことに抵抗を感じる。
――スリッパどこへやったかな。スリッパを脱ぎ捨てた記憶を探しながら健助は階段を下りた。
一階は休日だというのに人気がなかった。
――なんだ、みんな出かけてんのかな。家族とスリッパの確認、それと遅い朝食をとりにリビングをのぞく。そこには妹の美哉がいた。こたつの中に足を投げ入れ、新聞を読んでいる。そのすぐ横で座布団の上で気持ちよさそうに猫が寝ていた。
「おい、ミヤ。母さんたちは」
リビングにいる妹を確認してから、キッチンへと向かう。
「父さんは出張。母さんはその見送り」
兄の問いかけに素っ気なく返す。
「ああ」
――そういえば昨日そんなこと言ってたな。
「俺のスリッパ見なかったか」
「知らない」
また素っ気なく返された。
「あと、ミヤ。俺のプリン知らないか」
「知らない」
冷蔵庫の中身をざっと確認し、扉を閉じる。それから健助はシンクの中を覗き込む。
「流しにあるスプーンをお前は使ってないと」
「使ってない」
健助は小さくため息をつくと、リビングのこたつ――ミヤの向かい側――に入る。こたつの上にあったリモコンをとり、テレビをつける。ちょうどバラエティーの再放送が流れていた。
「あー、プリン食べたかったなー」
そう言い横目で妹を見る。美哉の眉毛がピクリと動いた。
「楽しみにしていたのになー」
チャンネルを次々と変え、面白そうな番組を探す。
「あー、俺のプリ……」
「食べてないって言ってんだろ!」
言い終えるか終えないタイミングで、美哉は新聞を兄の顔面に投げつけた。
「何してんだよ!」
新聞はバラバラになって散らばった。
「兄貴がねちねちねちねちしつこいからだろ。小姑かよ!」
「うるせーな。こんなことですぐに切れてんじゃねーよ!」
美哉は反抗期のせいか、怒りの沸点が低い。最近では兄妹げんかが絶えない。
「こんなこととはなんだ! 冤罪をかけられたあたしの身になれ」
「違うね。犯人はお前だ! どう考えてもお前だ。流しにはスプーン一本しかなかった。母さんたちは出かけたわけだから、状況的に考えて俺のプリンを食べれたのはお前しかいない!」
「ふん、とんだ名探偵だな! 状況証拠だけで人を犯人扱いすんなよ! ちゃんと物的証拠を持ってこ い!」
「お前よくそんな難しい言葉知ってんな」
――さすが我が頭のいい妹だ。健助は少し感心した。
「兄貴こそよくそんな頭の悪い論理を展開できんな」
――前言撤回である。生意気な妹だ。
「ムカついたんですけど」
「ムカつかせてやりましたけど」
お互いにらみ合う。
「いや、待てよ。物的証拠よりもいいものがあるぞ」
そう言って、今の騒ぎに目を覚ましたらしく背伸びをしている猫のもとへ健助は駆け寄る。美哉は健助が何をしようとするのかわかり、眉をひそめる。
「おいネコ! お前、誰が俺のプリン食べたかわかるか?」
猫は健助の顔をじっと見つめる
「教えてやるぞい。それはミヤだ」
それを聞いた健助はミヤに向かって得意そうに笑みを浮かべた。
「ちぇ」
そして生意気な妹は舌打ちをした。
向野兄妹の不思議な日常n-1
なぜ猫が喋るか次回で説明します。