片恋
呪い、みたいだ、だれかを好きになることは、囚われること。からだも、こころも、好きなひとの言葉、指の動きひとつに、反応する。よろこび、くるしむ。呼吸困難にもなるし、幸福感を垂れ流すこともある。獄につながれた、あやつり人形みたいなものだ。生きるも、死ぬも、好きなひと次第となると、もう、どうしようもない。
星のゆがむ、音がする。
それはあたりまえに、夜のできごとで、人気のない、シャッターのおりた駅のまえで、くるはずのない恋人を待っている、きみの、仄かな灯りに照らされた横顔を、そっとみているあいだ、刹那に、胸のすきまにはいりこんでくる、悪魔的な感情が、シンクロするように、ふるえる。コンビニで買った、ホットコーヒーが、ホットでなくなる頃に、きょうは帰るよと、さみしそうに微笑むきみに、あしたもここにくるの?、とはたずねない。きみは、そう、自然のことのように、あしたもここで待っているのだろうから。たとえば、きみの行動を、時間の無駄だと罵る者があらわれたら、ぼくは、無駄じゃないと反発し、きみをかばうのだ。土のなかでねむるひとたちの、ことを、ひそやかに想うのは、ひとりの夜に適している。きみがとなりにいるあいだは、ずっと、子どもの夢みたいなことばかり、かんがえていたいよ。
片恋