各駅停車
川島 海
車窓のずっと向こうを見つめている
一瞬の幕間に短く呼吸をしながら
忘失のかけらを必死に追いかけている
大きな公園を汗だくになりながら駆け回る
誰にも教えていない祖父の特別な飴玉を
右足のポケットに忍ばせて
蹴り上げる太ももで確かめることで
いつか会うあなたを思っていた
あの飴玉が溶けてしまうまで輝いていた瞳が
かけた文字の間をすいすいと泳いでいる
裏山で一番太い木の枝を渡る
誰にも教えていない秘密の部屋の行き方を
こっそりとノートの端に書き記して
机の中に忘れて帰ることで
いつか会うあなたを思っていた
あの教室を去る日まで高鳴っていた心が
不規則な電飾の瞬きを飛び跳ねていく
飛び込んできた斜陽が
静かに寂しさを置いていく場所があることが
もう誰にとっても日常になったのだ
三番線から背を丸めた青年が乗ってくる
各駅停車