雨上がりの口笛

下手くそな
口笛のような風が
雨の匂いを運んでくる。

風というやつは
余計なものまで運んで来やがる
忘れかけていたことを
決して忘れさせまいとして。

声にならない声をあげ
吹き飛ばされるが儘(まま)になり
やがてあらがう気力も失せて
おれは終(おわ)りの時を待つ。

生きるのはもとから下手さ、
上手くなろうとも思わない。
不器用な儘で構わない。

おれは美しいものが好きだ
おれが美しいと思うものを
誰も見向きはしないけれど。

風は、
ぼろぼろになったものを連れてきて
おれをぼろぼろにしようとする。
おれは決して繕(つくろ)いではなく、
まんまとぼろぼろになってしまう。

おれはぼろぼろのままで構わない。

心臓に刃先を突きつけられ、
刺され、抉(えぐ)られ、刳(く)り抜かれようとも、
おれは笑顔を絶やさずにいよう。
何も憎まずにいよう。
後悔というのは
美しい刃物だから。

愛をおしえてくれたお前に
最初で最後の愛を告げよう。
聞いてくれ、
おれの下手くそな口笛を。