どこに続くともしれない道を
 僕らは歩き続けていた
 暗い谷間を 喧騒のあふれる街中を
 他の人を追い抜いたり
 他の人に追い抜かれたりしながら

 人によって持ち物は違ってて
 恵まれててスイスイ進む人
 何も持たずに四苦八苦してる人
 中には木かげで休みながら
 こっちに向かって話してかけてくる人もいた
 そんな中でも楽しくやってこれたのは
 君がいたから 君とともに歩けたから
 
 あるとき僕らは林の中を歩き分かれ道に出会った
 君と 自分の道の途中で出会ってから
 こういうことは何度もあった
 その度に君と同じ道を選んで
 だからこそ 今回も同じ道を行くんだろうと
 そう 勝手に思い込んでいた

 でも現実は違くて
 君が行こうとしている道と
 僕が行こうとしている道は違った
 
 少し前 分かれ道が見えたときから
 こうなることは薄々気づいてた
 でも それを君に悟られるのが怖いから
 口に出さなかった
 僕が臆病なことも君は知っていたはずなのに

 僕が違う道を進むと言ったとき
 僕は君の顔を見れなかった
 それでも君は
 
 そっか
 
 とだけ
 こんなに長い時間一緒にいたのに
 僕はまだ君のことを
 これっぽっちも分かってなかった
 分かったつもりになってただけだった

 いよいよ分かれ道は近づいてきて
 違う道に進むときがやってきた
 君はこっちを向いて
 
 ありがとう
 
 それだけ言った

 でも僕は
 ありがとうなんて似合わないと思う
 僕たちはこれから死にに行くんじゃない
 生きるために話し合って
 それぞれが決めた道だから
 この先に待っているのはそういう道
 
 生きてさえいれば
 生きてさえいれば また会える
 またどこかで笑いあえる
 もちろんこの先の道は交差しないかもしれないし
 僕と君が会えるなんていう確率は限りなく低い
 もし会えたら それは偶然だと思う
 だけど
 今は難しいことを考えるのはやめて
 その偶然を信じよう
 
 だから僕はありがとうなんて言わない
 道は横でも もちろん後ろでもなく
 ただ前に伸びているのだから
 君も僕も前を向いて歩いていけるように
 それはほんとのほんとの別れまで取っておこうと思う
 僕は口を開くと
 
 また会う日まで
 
 そう言葉を紡いだ
 君はなんだかわかったような顔をして
 たしかに首を縦に振った
 
 道を歩いて少しすると僕は林を抜けた
 一陣の風が僕に向かって吹いてきた
 一度立ち止まり前を見やると
 そこには風にたなびく一面の緑と
 透き通る青が広がっていた
 そのさらに先を見ると
 緑から青に変わり
 果ての果てで青が溶けあっているのが見えた

 君は今 どんな景色を見ているのだろう
 君の目に映る風景は 
 どんなふうに君を受け入れるのだろう
 僕の目の前に広がるような草原か
 はたまた険しくそびえ立つ山々か
 なんにしろ僕にはもう知るすべは無い
 でも
 君ならなんとかできるんじゃないかな
 確証もなくそんな思いがこみ上げてきた
 
 再び僕は歩き出した
 僕が歩くその横にもう君はいない
 それでも僕は前を向いて しっかりとした足取りでいる
 いつの日か再会し 笑いあうため

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-03-18

Copyrighted
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