走る

苦しげな息遣いが(きこ)える
他人事のように自分の背中をみていた

(ここではないどこかに行き尽くしたら
何もかも元通りになるだろうか
あるいは そう錯覚させてくれるだろうか)

逃げることは逃げ道を潰していくことで
(とど)まることは緩やかに死んでいくことだった

(ほんとうの自分という幻想に執着していた
呪われる覚悟と、
リスクのない救済のすべてが信じられなかった
信じたくなかった)

仮想敵をまえに血迷う僕は
途方もない破滅を繰り返している

(もはや何に縋ればいいのかわからなくなったとき
何かに縋り、やり過ごすことに諦めがついたとき
はじめて僕は 幻想を実現できるような気がした)

屈折した自己愛がもたらしたものは
屈折した幸福論のほかに何もなかった

(嘘が嫌いな人間が嫌いだ
誰もが偽善者だ、それを
自覚しているかいないかの違いだ)

救われてたまるか、たとえそれが
どれだけ歪んでいようと
どれだけ役に立たなかろうと
みずから棄てるようなことがあってはならない

僕だけは
僕の孤独を愛さなければならない

走る

走る

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-03-18

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