走る
苦しげな息遣いが聞える
他人事のように自分の背中をみていた
(ここではないどこかに行き尽くしたら
何もかも元通りになるだろうか
あるいは そう錯覚させてくれるだろうか)
逃げることは逃げ道を潰していくことで
留まることは緩やかに死んでいくことだった
(ほんとうの自分という幻想に執着していた
呪われる覚悟と、
リスクのない救済のすべてが信じられなかった
信じたくなかった)
仮想敵をまえに血迷う僕は
途方もない破滅を繰り返している
(もはや何に縋ればいいのかわからなくなったとき
何かに縋り、やり過ごすことに諦めがついたとき
はじめて僕は 幻想を実現できるような気がした)
屈折した自己愛がもたらしたものは
屈折した幸福論のほかに何もなかった
(嘘が嫌いな人間が嫌いだ
誰もが偽善者だ、それを
自覚しているかいないかの違いだ)
救われてたまるか、たとえそれが
どれだけ歪んでいようと
どれだけ役に立たなかろうと
みずから棄てるようなことがあってはならない
僕だけは
僕の孤独を愛さなければならない
走る