小春日断章
春のほとりを、うつろな目をして歩いている。霞のむこうで、あなたが微笑んでいる。あのとき、そばにいてくれてありがとう。私はそれに対して、何と答えたのだろう。私はどうして、あなたのそばにいたのだろう。あなたのそばにいることで救われていたのは、ほんとうは私だったのではないか。霞のむこうで微笑んでいるあなたは、ほんとうは私なのではないか。またとない一瞬の光景で、わすれがたい感情の結晶で、きょうまで生きながらえてきたというのは。いまや、あらゆるできごとが、私のいる場所から遠く離れていく。無情にも、非情にも、手のとどかないところまで。でも私は、すべてが白んでいく景色をまえにしても、これだけははっきりということができる。「あなたに出会えて、よかった」声が、重なった気がした。
小春日断章