小春日断章

春のほとりを、うつろな目をして歩いている。霞のむこうで、あなたが微笑んでいる。あのとき、そばにいてくれてありがとう。私はそれに対して、何と答えたのだろう。私はどうして、あなたのそばにいたのだろう。あなたのそばにいることで救われていたのは、ほんとうは私だったのではないか。霞のむこうで微笑んでいるあなたは、ほんとうは私なのではないか。またとない一瞬の光景で、わすれがたい感情の結晶で、きょうまで生きながらえてきたというのは。いまや、あらゆるできごとが、私のいる場所から遠く離れていく。無情にも、非情にも、手のとどかないところまで。でも私は、すべてが白んでいく景色をまえにしても、これだけははっきりということができる。「あなたに出会えて、よかった」声が、重なった気がした。

小春日断章

小春日断章

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-03-17

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