何にでもなれた
楽
日差しが眩しいね
そのトンネルは随分長そうだけど
そうだね
もう薄暗いよ
ランプは無いの?
そんな物は無いよ
真っ暗だ
壁を伝うしか無い
そうだね
カミソリの壁だ
そうだね
ズタズタだよ
関係無いさ
この道は随分狭い
左右が焼けた鉄板じゃないか
そうだね
皮膚がぼろぼろだよ
関係無いさ
針の道だよ
足を突き破るほど長い
そうだね
これ以上歩けないよ
関係無いさ
もう道が無いよ
そうだね
ではさようなら
さようなら
珈琲と針
心臓に釣り針が引っかかっている
糸の先には得体の知れない黒イ塊が
引き千切ろう々と図体をぶくぶくと膨らませていく
いつ千切れるものかと隣の自分が釣り針を食い入る様にじいと見詰めている
私は蛇の様にくねるその糸を呆と眺め
明日はどうやって生きようかと考えている
繰り返し 々 々 々 々
あの塊はいつ私を殺すのだろうかと明日の食事のついでに考えた
目玉の行進
本日はお忙しいところ 皆様お集まり頂きまして真に有り難う御座います
お見せするのは虹と羽 恐怖に畏怖して目も当てられぬ
晩餐の主役は恥と針 転がり続けて逆上がり
間抜け面した豚の無知 殺して剥がして埋めましょう
加害者面した肉片の 臓腑に顔を埋めましょう
カンカラカラリと喚く日々 探して潰して食べましょう
娼婦の子宮に祈りを捧げ 足掻いて枯らして吹き曝し
待ちに待ったと悲鳴を上げて 地面に空を見下げはて
空けぬ脳髄血で流し 飄々飄と怒鳴り付け
下がりに上った心臓も 叩いて払いて塵芥
魔女の手足を引きずりながら 十字に無様を叩きつけ
齧った悪辣 稀の日に
どうぞどうぞと隙間を空けて 卵の殻は口の中
外した梯子に目眩を覚え 取るに足りぬと豪語する
並び揃った目の硝子 躓き転びて匙を貫き
焦る小鳥に煮え湯を被せ 蓋が開かぬと泣き崩る
見栄を喰んで懐かしみ さらりさらりと待ち足りず
これが血路と勇んで廻し 爪の先程手に余る
風呂敷崇めて奉りましょう
日々の照明証明せしめ 正銘怠惰と弾けましょう
見下げる自分を棚に詰め 負いし寂しと泣きましょう
最後のドルチェは錆に漬け 飽いた老いたと嘲けましょう
まだだまだまだまだ足りぬ
寄越せ寄越せと詰め駆ける
踊って腐った我が身に届かぬ 花の咲くかは井戸の中
瞼の裏には蛆の海
気づけず築けずさようなら
本日はお忙しいところ 皆様お集まり頂きまして真に有り難うございます
夢は見れたか
力があったから破壊した
頭が良かったから論破した
信じろと言われたから信じた
泣くなと言われたから泣かなかった
動けないから逆らわなかった
笑えと言われたので笑った
愛してと言われたので愛した
刻んでといわれたので刻んだ
食べたかったので食べた
死ねと言われたので
暗闇がじっと此方を見てイル
恐ろシかったが誰も何も言わなかった
自分の両目を潰シテみた
暗闇はまだ此方をミテいる
此処は一人で 私はとても
「幸せだ」
二人目 傲慢
私は正しい
私の気に入らない物は全部間違ってる
だから正論を言うの
非の打ち所も無いでしょう?
だって私は正しいもの
正しい事を言い続けるの
悪い事なんて無いでしょう?
正論は正義でしょう?
だから私は否定するの
貴方の間違いを正してあげるの
私の正論を聞けないなんて間違ってるわ
間違っていないのに
正義なのに正論なのに正しいのに
何で間違っているなんて言うの?
こんなに正しいのに
何で私の内臓をずっと引きずり出しているの?
だから嫌
だから嫌い
だから私は正論を言うの
ねぇだって私は正しいのに
「私がこんなに醜いなんて間違ってるわ」
三人目 色情
貴方は素敵です
貴方が私の最愛です
貴方だけを他の何と代える事なく只々貴方を貴方だけを
貴方の考えに私は何時だって賛同致します
貴方が何をしても私は貴方を許し続けます
貴方が私の至高です
貴方が何かを否定するなら私もそれを否定します
貴方の身体のどんな部位も私には宝石以上の価値があります
貴方が最悪なら私は最低なのです
貴方に誰が居ようとも私には貴方しか居ません
貴方が私に言う事ならば私は何でもいたしましょう
貴方は素敵で最高で最愛で至福で美しくて気高くて素晴らしくて愛しくて愛しくて愛しくて
貴方の傍から離れぬ様に両足を落とし
貴方以外に触れない様に両腕を落とし
貴方以外触られない様頭皮を剥いで
貴方以外を見なくて済む様両目を抉り
貴方の匂い以外を覚えぬ様に鼻を削ぎ
貴方の声を刻みつけて鼓膜を潰し
全てを愛しい貴方のために
だから早く
「同じ様に同じだけ私を 愛して」
四人目 名無し
誰かに声をかけてみた
反応が無いので他にも声をかけてみた
どうやら私の声は誰にも聞こえない様だ
大声で叫び続けたけれどやはり誰も私に気付かない
聞こえぬのならと近くに居た誰かに触れてみた
気付かない
引っ張っても叩いても殴っても気付かない
誰も私を見ない
泣いて喚いて物を壊して暴れてまわった
気付かない
誰も私を見ない
素通りしていく誰かと誰かと誰か
暗闇に居る誰かが幸せだ幸せだと呟いている
腐乱した醜い死体が地面に転がっている
白い芋虫が嬌声を上げている
存在しない私が喚いている
鏡を見た
居ない筈の自分が映っている
故障しているに違いない
鏡に映った私が口を開く
「これが私の望んだ世界」
五人目
ヒ
ゥ
ゥ
ぅ
ぅ
・
・
・
べちゃり
無題1
ざら ざら ざら
引いていく
ざら ざら ざら
赤い潮が引く
ざら ざら ざら
引いて 引いて かえらない
ざら ざら ざら
引いた場所から 波の音
ざら ざら ざら
ああ 津波だ
ざら ざら ざら
これで私は
ざら ざら ざら
羊水にかえるのだ
ざら ざら ざら
ざら ざら ざら
何にでもなれた