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あおい はる

 好きを足し算しても、愛にはならなかった。ときどき、時計のことを、わすれる。正確には、さいきんは、デジタル時計になれてしまって、アナログ時計をみて、一瞬、はて、と一拍置くような感じになる。よろしくないなぁと思いながら、ぼくは、きのうはじめて夜をともにした、朝の七時から夜の十一時までやっている、コンビニエンスストアの、幽霊店員のようすを、スイーツを選んでいるふりをして、ながめていた。なんせ、幽霊店員なもので、ほんものの店員のとなりで、おなじ動作をしていても、彼のそれらはすべて、ただのパントマイムでしかない。レジを打つ、商品を補充する、揚げ物を揚げる、など、ほんものの、つまりは、実体のある店員と、重なり合って動く、ほとんど透けている彼は、これで仕事をやった気になっているようだ。ちょっとだけおもしろいと思ったし、すごくかなしいとも思った。さみしいとも思ったけれど、それよりも、あの、彼の、ひんやりとしたからだにもう一度ふれたいと思った。べつに、一夜かぎりのかんけいではなくて、すこしずつでも、にんげんと、幽霊のあいだがらだけれど、親しくなってもいい、という心持ちなのだが、ぼくとしては。彼が、きのうの夜の、はじまりのときに、「ぼくらは種族がちがいますので、このようなことは今夜だけです」と、はっきり言い放って、ぼくは、そのとき、うん、と、うなずいてしまったので。そもそも、種族って、もとはおなじにんげんじゃないか、と思ったけれど、幽霊の、彼の、薄く透けてホテルの間接照明の色に染まった指が、ぼくの首筋から、鎖骨、その下へと這っていったので、すぐに思うことをやめた。思うことと、感じることは異なる。ルームサービスのかわりなのか、カップラーメンがふたつ置かれていたのが印象にのこっている。それから、秒針。あの、かっかっかっ、と、つっつっつっ、と、こちこちこち、と、進んでゆく、あれの方が、なんだか、幽霊よりも、こわい気がしている。じっとみつめていると、時間に支配されてしまいそうで。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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