「主人公にはなれない」
どういうわけか先輩は気持ちが天気に影響する。つまり先輩が泣けば雨になり、笑えば晴れになる。これに気づいたのは最近になってからなのだが、本人はまだ気づいていないようだ。鈍感すぎる。
総勢二名の部活動の時間は部室で静かに本を読むだけだ。いつも通りのはずが今日はあいにく大雨だ。最近天気の変わり方がおかしい。雨、風、曇り、雪とめぐるましく変化するそれは先輩の情緒の不安定さを直接意味する。「何か悩み事が?」そう尋ねると、先輩はなぜ分かったと言わんばかりの驚いた顔をしたがそれは無視して「私で良ければ聞きますよ」と続ける。「いや、別に大したことはない」そうは言ってもさっきから雨脚がどんどん強まっている。どうやら私は相談相手にはなれないらしい。
本を読むふりをしながらどうやって先輩を元気づけれらるかを悶々と考えていると部室のドアが勢いよく開いた。可愛らしい女の子だ。彼女は部室に入ってくるなり無言で先輩の手を取りすごい速さで走って出ていってしまった。
部室に一人取り残された私は何をするでも無く、ただ天気を見つめる。だってさっきまでの雨がこんなに嘘のように晴れてしまってはもう何も言えない。虹がかかった綺麗な青空が少しぼやけて見えるのはきっと私の気のせいだろう。
「主人公にはなれない」
当て馬にすらなれないって辛い。