「境界線」

 先輩に初めて頼りにされた。それだけでこんなに喜ぶのはおかしいだろうか。一人でいることが多く甘え下手な先輩には常々言っていた。「恋人の私にくらい頼ってください。私に出来ることならなんでもしますから。」先輩はいつも少し戸惑ったような顔をしていたが、やっと恋人として私に甘えるようになってくれたらしい。本当に嬉しい。
 ところで私達は今その頼みでドライブデート中だ。初めてのお願いがドライブデートなんて可愛らしい。先輩たっての願いで山に行きたいというので、山道を進む。助手席の先輩はデートだというのに眠ってしまったので、私はそっとシートを倒した。
 目的地に着いて私は早速先輩の期待に応えるべく準備に取り掛かる。先輩の用意したシャベルで穴を掘り、先輩をそこに寝かせる。上から土をかけられていても先輩の顔は愛らしい。愛する先輩の為だ、私は何だって喜んで力になろう。
 役目を終えた私は軽快な足取りで車に戻る。先輩が初めて頼ってくれた喜びの余韻がまだ消えない。「帰り道、何処か寄ってなんか食べて帰りますか?」返事がない。ただ、それだけが少し寂しい。

「境界線」

「善と悪の境界線はすべての人の心の中にある。」アレクサンドル・ソルジェニーツィン

「境界線」

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-03-10

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