経る時

経る時

―雪だよりから50年後―

桜が満開のとある春の日、ベラとハリーは、満開の桜が見えるホテルに来ていました。
今日は、ベラとハリーの結婚50周年のお祝い。
2人ともおじいさんとおばあさんになり、もうスキーも滑れなくなっていました。
2人が結婚してから、春になると必ず泊まりに来ていたこのホテルも、もうすっかりさびれてしまっています。
ハリーはベラと出会った時から冬になると必ず絵葉書を送っていましたが、それは2人が結婚してからもずっと続いていました。
ハリーは、ベラと満開の桜を眺めながら、こう言いました。
「ベラ、50年間僕とずっと一緒にいてくれてありがとう。」
そんなハリーに、ベラはこう返しました。
「こちらこそ。冬ごとに素敵なラブレターを送ってくれてありがとう。」
そして2人は結婚50年のお祝いをして、ホテルで楽しく過ごしました。

しかし、悲しい出来事が2人を襲います。
ホテルから帰り、いつも通り村で過ごしていたある日のこと、ハリーは突然倒れてしまったのです。
「ハリー、ハリー!!」
ベラは、意識不明になってしまったハリーのそばにずっと付き添い続けました。

ハリーが倒れてから5日目のこと。
ハリーは奇跡的に目を覚ましましたが、それがハリーの最期になってしまいました。
「ベラかい…?」
「ええ、私よ、ベラよ、わかる?」
「ベラ…僕と出会ってくれてありがとう…。僕は君と来年も一緒にあのホテルの桜が見たかったな…。」
「そんなこと言わないでハリー!!また来年も一緒にあの桜を見に行きましょう!!」
「ベラ…ありがとう…愛してる…。」
それがハリーの最期の言葉でした。
「ハリー、行かないで、ハリー、ハリー!!」
ベラは泣き崩れました。
ハリーのお葬式が終わってからも、ハリーからもらった絵葉書を読み返しながら、ずっと泣き続けていました。

―1年後―
桜が満開になったある日、ベラはまたあのホテルに来ていました。
でももうそこにはハリーはいません。
ベラは1人ぼっちで、満開の桜を見つめていました。
すると突然、ハリーとの思い出が走馬灯のようによみがえり、懐かしいハリーの笑顔が浮かび、ハリーの声が聞こえてきました。
「ベラ、こっちへおいで。」
「よし、じゃあベラ、どっちが早く滑れるか競争しよう!!」
「ベラ、愛してる…。」
ベラは少しだけ涙を流し、ぽつりとつぶやきました。
「ねえハリー、なぜ私を置いて先に行ってしまったの…。」
そしてホテルから戻ったベラも、ついに病に倒れ、ほぼ寝たきりの状態になってしまいました。

ベラが病に倒れてから1年近くが過ぎ、桜が咲き始めた頃…。
ベラは奇跡的に回復の兆しを見せ、病室でうわごとのようにこう言っていました。
「桜…あのホテルの桜…行かなきゃ…。」
そう、ベラとハリーが毎年春に訪れていたあのホテルは、建物の老朽化でもうすぐ廃業し、取り壊されることが決まっていたのです。
息子のモーリーは、何とか外出許可を取り付けて、ベラをホテルへ連れていき、満開の桜を見せてあげました。
ベラは涙を流しながら、こう言いました。
「ハリー、今年も桜が綺麗に咲いたわ…。私ももうすぐあなたのところに行きますね…。」
モーリーが気が付くと、ベラは車いすの上で眠るように亡くなっていました。
モーリーは、青空を見上げながら、こうつぶやきました。
「父さん、母さんをよろしく頼むよ。」

経る時

経る時

松任谷由実さんの経る時のイメージで作ったドールハウスに合わせたストーリー。 前作の雪だよりから50年後の物語。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-03-09

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