あなたへ

鷹尾 銀二

彼らがなければ俺は存在していない。そして彼らも、俺が生きていないと存在できないのだ。

たかだか、万年筆が壊れたごときで…
普通はそう思うのかもしれない。世間は、そういうのかもしれない。
それでも、どうか。俺にとって、彼がどれほど大切なのか、少しでいい。俺の世界に入ってきて知ってほしい。きっと、喚いても、誰も話を最後まできいちゃくれないから、こうやって文章にする。これは、ただの俺の独白だ。

 俺は平等な人間ではない。全てのものをものすごく大事にしているわけではない。俺の世界を作っている、そんなもの達に愛着を持ち、酷く執着している。これは、人で例えるならば、真の友達(良き理解者)を増やすことと変わりはない。
 物が理解者?と思うかも知れない。だが、よく考えてほしい。自分に一番近いものは何者かを。ぬいぐるみはいつでも俺の味方でいてくれる。ナイフは、いつも俺の切りたいもんを切ってくれる。万年筆は、俺の思考を、絵や文にしてくれる。他人の思考を100%理解するのは不可能だ。もちろん、寄り添うことはできるだろうが。物は、俺の思考に手を貸して、具現化する手助けをする。一番俺の思考を理解しているのは、紛れもない彼らだ。
 人も確かに大事なんだ。最近は、俺の考えを理解してくれる子も、一緒に考えてくれる子もできた。その子もとっても大好きだし、すごく大事なんだけど、俺にとってはそれと同じぐらい、この物達が大事なのだ。
 物に心があるかと言われたら、それはわからない。それでも、俺は彼らに、確かに魂のようなものを感じている。きっと、他人には感じられない。人だったらそれを絆というのだろうか。そんな見えない不確かと言われる繋がりを、俺は彼らに確かに感じている。俺らは、いつでも繋がっている。彼らが死んだら俺は俺として存在しないし、俺が死んだら彼らの魂の存在は消えてしまう。それは俺にしか認識できないからだ。だから俺は彼らを墓まで連れていきたい。俺だけが、彼らを知っているから。
万年筆は、穏やかで俺の考えを静かに聞いてくれていた。俺の問いに答えることはないが、話をよく噛み砕いて書きたい文、文字、言葉、絵、伝えたいこと、いつでもせっせと俺の考えをまとめてくれていた。戦友のようなものなのだ。

 初めて君を使って、文をしたためたときの、滑らかさを。昔からずっと一緒にいたような懐かしさを。俺は、忘れたことはない。君のペン先で、一閃入れたときから君は俺の思考と感情を緻密に理解してくれていた。間違いない。君は、俺にとっての戦友だ。

 最後の絵をかき終わったとたん、命の終わる音がした。ぱきっと、軽い音を立てて事切れた。役目を終えたみたいに、軸とペン先が離れてしまって。酷く悲しい気持ちになった。置いて行かれるときのような、裏切られた時のような、酷く悲しい気持ちになった。ずっと、隣に居てくれると思った人が、いなくなってしまった時のような、そんな苦しい気持ちになった。悲しくて、目の頭がかぁっと熱くなって、ぽろっと涙が流れていた。

 傍からみたら、おもちゃが壊れてぐずっている子供に見えるだろう。でも、それは違う。俺らには俺らの世界がある。俺らには俺らの関係がある。俺らには、俺らの愛がある。もしかすると、その子供にも世界があるのかもしれない。

 お疲れ様。ごめんね。俺が代わりに折れてしまえばよかったのに。ごめんね。痛かったよね。苦しかったよね。ごめんね。まだ、楽にさせてはやれないな。

 俺は、あなたと絵や文を書いていたいんだ。
もちろん、俺の命が尽きるまで。

あなたへ

あなたへ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-03-07

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