【土方+山崎】作法前夜

しずよ

2018年に開催されたwebオンリー鬼に監察でのTwitter企画・真ん中バースデーのお話。
真ん中バースデー前日の3月21日、山崎の元に差出人不明のメールが届くところから始まります。一体誰がどういう目的で送ったのか、それについて土方さんと山崎があれこれ論争します。
カップリング要素はないつもりで書いています。

 ドタドタドタドタと廊下を走る音が背後から聞こえて、山崎は振り返る。
「わーっ、なんでアンタいっつも全裸なんですか!」
 後ろからやってきたのは近藤だった。
「あっ、見えた? ごめーん! 新しいパンツ脱衣所に持って行くの忘れちゃったんだよ」
 近藤は、へへへ、と笑って頭をかく。
「え、新しいのじゃないといけないんですか? つーかそれならバスタオル巻けばいいじゃないですか」
「あ、それもそうだな」
 近藤は手に持っていたバスタオルを腰に巻く。
「深夜から討ち入りだろ? そういう時には俺は新品を身につけるって決めてるのさ」
「それって験担ぎですか?」
「そう。ザキは今回の討ち入り休みだっけ?」
「ええ、俺は今晩は屯所待機です」
 山崎はこれから仮眠をとるために、歯磨きが終わったところだ。
「そっか、じゃあ何かあった時はヨロシク」
 近藤はバチッとウインクする。
「いやいや縁起でもない。俺の出番は無しでお願いします。そもそも討ち入りが上手くいくための験担ぎじゃないですか」
 攘夷浪士とも言えない筋の悪い集団が空港近くにいて、監察方による監視が続いていた。
 臓器を国外へ売買している集団である。その上その売上金で武器の密輸もしていると見られている。
 臓器を運ぶためと思われる亡国のチャーター便が、明日午前二時に空港へ着くのだ。このあと近藤と五番隊がアジトへ、土方と一番隊、二番隊が空港と病院へ向かう段取りになっている。
「験担ぎ結構みんなやってるよね?」
 近藤が山崎に問いかける。
「ええ、原田は門を出る時は必ず右足からって言ってましたね」
「そっかー、必ず右足から靴をはくって決めてる奴らは多いしな。トシはさ、討ち入り当日の朝は身支度整えるまでタバコは吸わないんだって」
「沖田隊長もやってるんですか?」
「総悟は……屯所を出る直前まで決まった落語を聞いてるよ」
「どんな落語ですか?」
「うん、死神」
「死神……」
「だからちょうど今聞いてるんじゃない? あ、そういえばザキのアンパンと牛乳も験担ぎみたいなもんじゃない?」
 そう言われればそうだ。張込みが成功するための作法である。でもあれは張込み限定だからなァ。
 近藤は支度をすると言って部屋に戻って行った。俺も何か別の験担ぎしたいなあ。眠いから明日考えよう。山崎は部屋に戻り布団を敷く。
 ――ブブブブブ。机の上に置いていた携帯電話が震える音がした。
「あ……、来た」
 山崎は少し青ざめる。それは警察庁のイントラネットにあるカレンダーからのお知らせメールの転送だ。本文にこう書いてある。
『明日、三月二十二日の予定は土方十四郎さんと山崎退さんの真ん中バースデーです』
 要するに土方と山崎の誕生日の中日を親切に教えてくれているらしい。一番初めにこのメールを山崎が受け取ったのは一年前で、カレンダーにこんな機能が実装されていることに驚いた。
 しかしそんなお知らせされたからと言って、その一見何でもないような日に「真ん中バースデーなのでお祝いしませんか?」と土方に言っても軽くあしらわれるだけだろう。だから山崎はメールを無視した。
 それから半年後にも再びお知らせが来た。そうか、真ん中だから一年に二度あるのか。内回りと外回り。しかしその日も山崎は何もお祝いしなかった。
 翌日に怪我をした。刀での柿の皮むきで沖田と賭け事をしたのだ。山崎は負けるし指をざっくり切るしで散々な一日だった。あれ、そういえば半年前にもりんごの皮むきで怪我をしたような。
 お祝いをしなかったことが妙に心に引っかかる。俺が無視したからその報いなのか?
 そんな折、本庁のシステム開発の職員に真ん中バースデー機能の件を山崎は尋ねてみた。
「え? そんな機能ありませんよ」
 当たり前だろ何言ってんのコイツ、みたいな顔を向けられた。
 え、じゃあこのお知らせ何? 誰がどこから送ってんの?
 底の知れない恐ろしさ感じて、山崎は背筋が寒くなった。
 どこから送信されているのか調べてみようか。技術的には犯人までたどり着くことが可能かもしれない。しかしそれがもし、生身の人間じゃなかったらどうしよう。目に見えない世界――異次元やあの世に通じていたら……。
 あの世。
 春も秋もお彼岸の中日に近いのは、果たして偶然なんだろうか。昼と夜の長さが等しくなる春分と秋分の日を挟む七日間は、彼岸と此岸が近づくと聞かされた。だから故人に会いに行くために、お墓参りをするのだと。
「そういうことなんで副長、なにか呪いのメール的なアレだったら怖いんで、真ん中バースデーをちゃんとお祝いしましょう」
 眠気の吹き飛んだ山崎は副長室に押しかけて、正座で土方に説明を始めた。このまま放っておいたら、みたび怪我をするかもしれない。
 土方はというと刀の手入れを終えて討ち入りの最終確認をしているところだった。
「あのなァ、山崎。オカルト扱いする前にちゃんと本庁の奴に調べさせろよ。サイバー攻撃とかされてるんじゃねえのコレ」
「一応職員に確認したんですけど、外部からの侵入の形跡はないって言ってました」
「……内部の犯行かよ」
「そもそも犯人いるんですかね」
「だからそっちに話を持っていくんじゃねえ」
 抜刀した土方は切っ先を山崎に向ける。山崎はホールドアップして「あー、ていうか副長も真ん中バースデーのこと知ってたんですね」と聞いてみた。
「だってカレンダー共有してんじゃん」
 土方は近藤、各隊長、監察方とスケジュールを共有している。しかし実際使用しているのは土方と監察方だけなのだが。
「あ、それでか。でも他は誰もこのこと話題にしてませんよね?」
 カレンダーからのお知らせがもし沖田にも届いていたら、黙っているはずはない。土方をからかうネタになる。だから土方と山崎にしか届いてないのだ。
「お祝い何します? 副長」
「ケーキ食うだけでいいだろ」
「お彼岸だからむしろぼた餅やおはぎが向いてるんじゃ……」
「あんこは俺が認めねえ!」
「どんぶり飯にはかけませんよ?」
「ダメだ! あんぱんと大して変わらねえだろうが」
 再び土方にスパーキングしたり下着で町中をさまよったり女性をストーカーしかねない。
「やだなあ、一日だけだしそんな中毒になるくらい食べ続けませんて」
「とにかくお前は食べ物から離れろ。だから相撲だ」
「は? なんで突然……。それならミントンだって良さそうなもんじゃないですか」
「ちげえ、相撲はスポーツじゃねえ、神事だ。八百万の神々のための祭りなんだぞ山崎」
 真面目な顔をして土方が言うが、いつもの土方らしくない。さっきから態度が嘘くさいし、こわばっているようにも見える。
「……じゃあまわし締めて土俵で塩まいてやらなきゃですね」どこか土俵貸してくれるかなー、と山崎がうそぶく。
「……別のにするか」
「あ、分かった。さっきから何か変だなーと思ったら副長も怖いんで……いたたたたた。髪つかむの相撲では禁じ手ですよ!」
「真ん中バースデーの神様から有効だって聞いたんだよ」
「だからそれ誰ですか!」
 それからふたりが話し合って出てきた案は、二人羽織り、組体操、だるまさんが転んだ、同時通訳、あやとり等々。
「つーか同時通訳ってなんだよ山崎。大喜利じゃねえんだ真面目に考えろよ! 呪いが解けねえだろ!」
「アンタも悪乗りしてたくせに俺だけのせいにしないでくださいよ!」
「あーもう面倒だから普通にケーキ食うのでいいだろ」
 ふりだしに戻る。
「そうですね、なんかこれ以上話し合っても思い浮かば……」
「あ」
「今度は何ですか副長」
 土方の視線の先にはポスターが二枚貼ってある。『イカのおすし』と『オアシス運動』だ。
いかない、のらない、おおごえでさけぶ、すぐにげる、しらせる。
 子供への声かけ事案による犯罪を未然に防ぐための標語である。
 オアシス運動は、おはよう、ありがとう、しつれいします、すみません、の挨拶運動だ。
 警察庁が呼びかけて学問所の子供達が夏休みの宿題で描いたもので、その中から金賞を受賞した作品がポスターになっている。公共施設に配布されていて、昨年末から屯所にも貼ってあった。
「え? イカのおすし食べるんですか?」
「そっちじゃねえ。二十二日の朝一番に、俺んとこに挨拶に来いよ」
 山崎は意表を突かれて目を丸くする。でも験担ぎは本来簡単で続けられるものが多いのだ。
「それいいですね。俺が張り込み中の時は電話でもいいし」
「決まりだな」
 これで不審なメールはもう届かない気がした。ふたりで安堵したところで縁側から足音が響いた。
「トシ、そろそろ時間だぞ!」
 近藤が威勢よく声をかける。
「分かった、すぐ行く」
 土方が返事をした直後、時計の針が午前0時を指した。春の真ん中バースデー当日だ。
「副長、おはようございます。……それから、ご武運を」
「たりめーだろ。つーかお前も来るんじゃねえかと思ってたけど。違うのか?」
 土方は挑発的に山崎を見る。
 
 
 
 山崎の報告書は今回特に下手くそで「仲間を大切にしない奴らは絶対に許せないと思いました」と自分の気持ちだけ書いてあり、土方には訳が分からない。聞けば臓器の集め方が下衆すぎると怒っている。
 下っ端に見るからに気の弱そうな地味な男がいたらしい。犯罪者集団には全く似つかわしくない男だったから、気になっていたようだった。
「財布落としましたよ」
「あわわわわ……、あ、あのう……、ありがとうございます」
 山崎はこっそり引ったくった財布に素早く発信機を付けて、何食わぬ顔をして男に返した。
 しばらく後に抗争が起こった。奴らが根城にしている空港近くをシマにしてるヤクザ者との銃撃戦だった。近所からの通報で同心がやって来て、数名がお縄となった。この段階では真選組が出張るタイミングではなかったから、山崎はひたすら事の成り行きを見守った。捕まったのはおそらく末端の構成員ばかりだと思われた。
 現場での即死は一名、怪我人六名との新聞報道だった。病院に運ばれた六名の中に発信機の男も含まれていた。軽傷と思われたのに、その後の報道では全員死亡となっていた。しかも病院から自宅や火葬場に運び出された形跡がない。おかしい。
 集団の頭は定期的にヤクザとの揉め事を起こして、怪我人から臓器を集めているのではないのか。そして臓器を摘出するのはチンピラ風情では無理だ。病院もグルじゃないのか。
 発信機の男に山崎が自分を重ねて見ていたのかどうか、土方には分からない。が、義憤に駆られる山崎が珍しく、新たな一面を見られて土方は少し嬉しく思ってしまった。
 
 
 
 土方に討ち入りの参加をけしかけられて、山崎が正座の膝の上に乗せていた拳をぐっと握り込むのが見えた。そして強い目で土方を見上げる。
「一本だけ待ってやる。準備してこい」土方が胸元からタバコを取り出す。
「おれ抗争の時の死亡検案書を書いた医院長の自宅へ向かいます!」
 土方がタバコに火をつける前に山崎は副長室を出て行った。
 いつもこれくらいのやる気なら頼もしいんだけど。でもそんなの山崎らしくないな。土方は慌てて駆けていく背中を見送った。
〈了〉

【土方+山崎】作法前夜

【土方+山崎】作法前夜

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-03-07

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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