青く染まる肺

 かなしい、だけが、クレッシェンドして。きみが、つくりものだったとき、すこしだけどきどきした。きみという器の、内部が、ぼくらとおなじ構造ではないこと。金星からの通信、町でいちばんの電波塔が、受信して、ノイジーな放送が流れる三月。ケーキやさんのかたすみで、うつろなまなざしをむけている、ゆうれい。ザッハトルテ。ショーケースの向こう、おだやかな笑みをたたえる、パティシエのひと。ぼく、が、いつか、わたしになる頃。森のみずうみにひそむ、ナンバーコードでしか識別できない、たぶん、あたらしい人類は、死ぬと花の苗床となる。星に還るのだ。養分として。行方不明になった住人がいて、その行方をたずねる町内放送にまざって、呪文のような、歌のような、けれど、ことばのわからない、金星からの音声が、じゃまをする。二十時って、なんだか、平和であってほしくて、いなくなった誰かのことを想うのが、こわい。

青く染まる肺

青く染まる肺

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-03-04

CC BY-NC-ND
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