「贖罪」
「どうすれば切るの辞める?」その問いかけ自体がめんどくさくて私は「この退屈な人生に何か劇的なことが起きれば辞められるかな〜」なんて適当に返してしまった。切ればこんな私にもあなたが構ってくれるから、なんて言えないから。
最初は、本当に辛かったから切った。逃げ出したくて、でも逃げ場が無くて。必死だった。もう痛みとかそういうのはどうでも良かった。でも、最近はゲーム感覚になってしまった。流れる血が少なければ先輩は優しい言葉をかけてくれるし、多ければ先輩は私を強く抱きしめてくれる。
私の腕を見て必死になる先輩がおかしくて愛おしかった。先輩はどんな人にも優しい。困っている人がいれば必ず手を差し伸べるし、その人が喜ぶならどんな手段だって使う。そんな人なのだ。先輩は私を何度も何度も手当してくれて身体を大切にしろって言ってくれた。嬉しかったけど、もう習慣化してしまったそれを辞めるにはもう少し時間がかかりそうだ。
ところで先輩が殺されたのはそれから数日経った頃だった。無差別で猟奇的な殺人。先輩の身体はカッターナイフで切るよりももっと深く切り刻まれてバラバラにされていたらしい。
*
「確かに言いましたけどまさかそんなやり方までするなんて聞いてないですよ、本当に先輩は優しいんですね。」青空の下、すっかり大人になった私は先輩の墓に向かって呟く。腕の傷跡はもうほとんど残っていない。
「贖罪」
先輩の分まで強く生きる。